十住毘婆沙論 (Jujubibasharon (the Discourse on the Ten Stages))
『十住毘婆沙論』(じゅうじゅうびばしゃろん)は仏教の論書であり、17巻。
著者はインドの仏教学者龍樹(りゅうじゅ)である。
5世紀初め鳩摩羅什(くまらじゅう)が訳した漢訳のみが現存し、サンスクリット原典もチベット訳も伝わっていない。
現存する漢訳は、偈頌と散文とでできており、偈頌の内容を散文で解説している。
しかし、散文の部分については龍樹作とすることに疑問がもたれている。
鳩摩羅什は、インド僧仏陀耶舎(ぶっだやしゃ)が口誦したものを漢訳したと言われている。
しかし、翻訳について両者の意見が対立して未完に終わった、と伝えられている。
これは、鳩摩羅什の翻訳方法が、多分に彼自身の解説や、彼自身が記憶する仏典を交えながら翻訳する形態を採っているので、散文にはそれが多分に入っていると考えられる、
本書は華厳経の一部の『十地経(じゅうじきょう)』の注釈だが、大乗菩薩の思想と実践を『十地経』に依拠して説いたものである。
後世、浄土教の念仏易行道(ねんぶついぎょうどう)を説く一章「易行品(いぎょうぼん)」がとくに注目され、この章についての研究は多い。
だが、全体としての研究はほとんどない。
龍樹の『菩提資糧論(ぼだいしりょうろん)』との関係も深いので、大乗仏教を理解するうえで、きわめて重要な論書である。
近年刊行の文献に、瓜生津隆真校注「十住毘婆沙論」 全2巻 <新国訳大蔵経釈経論部12・13 大蔵出版>がある。