折伏 (Shakubuku)
折伏(しゃくぶく)は、破折屈伏(はしゃくくっぷく)の略。
仏教(特に日蓮系の宗派)における布教姿勢の一つで、摂受(しょうじゅ)に対する語。
相手の間違った思想に迎合することなく、正しいものは正しいと言い切り、相手と対話を通じて仏法を伝えること。
概要
「勝鬘経(しょうまんぎょう)」の「我得力時。於彼処見此衆生。応折伏者而折伏之。応摂受者而摂受之。何以故。以折伏摂受故令法久住」を出典とし、悪人を折伏し善人を摂受することで、この二門は仏道の大綱であるとされる。
また折伏を智慧門、摂受を慈悲門に配す解釈もある。
日蓮がその著作『開目抄』において、摂受よりも折伏の方が末法時代の日本においては適した布教法であると判定していることから、法華宗各派では特によく使用される言葉である。
日蓮は、当時の仏教界に互いに矛盾する多くの教えがあり、どれもが釈尊の教えと称していることに疑問を持っていた。
釈尊の真の教えを求めて比叡山にて修行を積んだ結果、天台大師のいう教相判釈(五時八教説)が正しいものと考え、法華経が釈尊の真の教えであるとの結論に達し、五時八教説に依って四箇格言を掲げて折伏を行うようになった。
これが今日まで続く折伏の始まりである。
日蓮以降、日蓮法華宗はその教えに随い各地で辻説法を行い折伏に励んだ。
しかし、この折伏活動が弾圧される契機になった例も少なくない。
世に知られる織田信長の安土宗論もその最たる例であるといわれる。
また慶長13年(1608年)には、日蓮宗常楽院の日経が、尾張(愛知県)で浄土宗を批判したため、訴追されて江戸幕府に召還され、江戸城で浄土宗と問答を行うよう命じられたが、その前夜に暴徒に襲われ負傷した、もしくは病を称して問答に十分応えず、浄土宗の勝利に終わった。
翌年、日経は耳と鼻を削がれるという処刑に遇った。
徳川家康はこれを機に、四箇格言の「四箇格言念仏無間」の三証はないという念書を書かされ提出を求められた。
これにより日蓮法華宗はその折伏という手段を大きく抑制されてしまう結果となった。
なお、日蓮宗ではこれを慶長法難と呼んでいる。
折伏が一般的に知られるようになったのは、創価学会が1951年以降に始めた「折伏大行進」キャンペーンである。
現在の創価学会ではそのような大々的な布教活動は比較的影を潜めているが、当時は現在と比べても極めて激しいものであったことを非信者はもちろん、信者側も認めた上で誇りとする人も少なくない。
当時の信者は「折伏教典」を片手に片っ端から折伏した。
この折伏教典は創価学会独自のもので現在は刊行されていないが、そこには日蓮宗、天台宗、真言宗、禅宗、念仏宗、キリスト教などありとあらゆる宗教哲学に対して徹底的に批判・断罪した内容であった。
当時から批判している人の多くは、この当時の折伏の激しさに加え「言論出版妨害事件」なども相まって、創価学会に対するアレルギーや警戒感を現在でも絶えず持っている。
近年では、急進派団体の信者による折伏によって、警察沙汰にまで発展したことがマスコミで報じられている。
しかし折伏は、仏の教えをある程度理解している人、もしくは同門(その宗派)の教えで理解が進んだ人に対して行われる手法であり、仏教を知らない人に使う手法ではない、といった主張や解釈の違いもある。
また折伏と摂受は正反対な手法とされるが、化導法(仏の教えを理解せしめていく上)では、どちらも切っても切れない不二の法門である、という指摘もなされている。
なぜ折伏するのか
法華宗各派における折伏に対する姿勢の違いを見ていくと、身延系(日蓮宗など)では折伏・摂受の二門の状況に応じた使い分けを強調するのに対し、富士系(日蓮正宗など)では、あくまでも折伏を宗祖の正意としている。
ただし日蓮宗も、当初は折伏一辺倒であったとされる。
日蓮宗が摂受も行うようになったのは、安土問答の法論で浄土宗に負けてからといわれる。
富士系が折伏を行う背景には
釈迦の教えは去年の暦と同じで、末法の世では無益どころか有害となる
日蓮こそ真の本仏であり、釈迦よりも優れている
間違った教えを信じていると人や国が滅びる
といった、先鋭的かつ原理的理念の側面が一つの原因と見られている。
折伏活動に対する社会的批判
様々な要因により、現在では下記のような「教団への強引で迷惑な勧誘」との意味に折伏の語は用いられている。
勧誘時の主張の多くが、根本原理自体が違う宗教団体とその信者への誹謗中傷及び科学と歴史の否定であり、主張全体を見ていくと理論的整合性に欠ける。
医師、看護師やハローワーク職員等がその職務上の権限を濫用し入院患者、失業者等逆らえない立場の相手に信仰を強要する事例が多い。
過去にはこれらの問題が多発したという背景もあり創価学会が官界、教育界、言論界、医療界などを横断した総体革命の方法について一部方向修正を強いられる結果をもたらした。
目的を隠した呼び出しや「地獄に堕ちる」などの脅迫、ストーカー、物理力の行使(集団での取り囲みによる勧誘、暴力を伴う拉致や監禁等)を正当化する等、社会的に問題となっている(暴力団に近い)行動が多い。
教義をもとに活動しているため、一般常識や受忍限度を逸脱する可能性があることによるものである。
上記の呼び出しを行うために、イベント会場等で初対面の人から目的を隠して個人情報を聞き出す例もある。
携帯電話を奪って電話番号を入手する悪質なケースもあるといわれる。
遺産相続や宗旨替えなど、親類同士の場でも折伏に近い活動が行われる事があり、この場合人間関係や金銭問題にも重大なトラブルを起こすことがある。
この場合は刑事事件や民事事件としてトラブルが表面化しにくい。
最近では一部の掲示板など相談サイトの登場で徐々にではあるが表面化しつつある。
被害者側がこれらの被害を訴えても、多くの場合、加害者側の信教の自由と民事不介入を口実に団体による攻撃を恐れた警察側が介入を拒む事が多い。
また加害者側を逮捕し、教団施設を警察が捜査した後に、不当な捜査だったとして裁判を起こしたが、裁判では警察側の主張を全面的に受け入れ上告しなかったものの、教団内で不当な裁判で上告したと発言する事例も存在する。
学生同士の勧誘で学校内で問題になり、学校側から加害者側が自主退学か勧誘の禁止の選択を迫られた場合、団体側が勧誘した生徒に退学するように働きかけた上で、自主退学を学校側に退学させられたとして教団内の会合で発表することもある。
入信を断った場合に、非合法な物理力の行使による信仰の強制(もしくは拒否)や団体への寄付は勿論、勧誘した側の信仰を反対する親類への弱みに付け込んだ慰謝料を口実とした恐喝等と言った犯罪に発展することもある。
折伏の被害を防ぐには
疎遠だった級友等からの用件の曖昧な呼び出しには応じない。
初対面の人にむやみに個人情報を教えない。
教えてしまった場合は着信拒否等の対応を取る。
職場、学校で被害に遭った場合は、周囲との連携を密にする。
被害の対策に当たっては、当該団体と対立関係にある宗教宗派に頼ることは避ける(対立関係にある宗教であることを隠した「被害者の会」(例として日蓮正宗主導の創価学会被害者の会や創価学会主導の顕正会被害者の会)が存在するため、注意を要する)。
その他・転用
特に急進派の団体で、昭和40~50年代の過激派全盛期の各党派の新人活動家獲得のための勧誘活動になぞらえ自派の折伏活動をオルグ(オルガナイザー)と呼ぶ場合がある。
転用として、実際の目的を告げず気の弱い消費者を取り囲んだり承諾するまで決して帰らない、帰らせないなどする点から展示会商法(絵画商法など)や催眠商法等の悪質商法の勧誘方法、または最初の段階で事実を隠して勧誘することから風俗店のスカウト等を業者側が自嘲的に折伏と表現することがある。