地蔵菩薩 (Jizo Bosatsu)
地蔵菩薩 (じぞうぼさつ)、サンスクリットクシティ・ガルバ(d kSiti gharbha)は、仏教の信仰対象である菩薩の一尊。
クシティは「大地」、ガルバは「胎内」「子宮」の意味で、意訳して「地蔵」と言う。
また持地、妙憧、無辺心とも訳される。
三昧耶形は如意宝珠と幢幡(竿の先に吹き流しを付けた荘厳具)、錫杖。
種子 (密教)(種字)はカ(ha)。
大地が全ての命を育む力を蔵するように、苦悩の人々をその無限の大慈悲の心で包みこみ、救う所から名付けられたとされる。
一般的には「子供の守り神」として信じられており、よく子供がよろこぶお菓子が供えられている。
一般的に、親しみをこめて「お地蔵さん」、「お地蔵様」と呼ばれる。
概要
とう利天に在って釈迦仏の付属を受け、毎朝禅定に入りて衆生の機根(性格や教えを聞ける器)を感じ、釈迦の入滅後、56億7000万年後に弥勒菩薩が出現するまでの間、現世に仏が不在となってしまうため、その間、六道(地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人道・天道)を輪廻する衆生を救う菩薩であるとされる。
像容
一般には剃髪した声聞・比丘形(僧侶の姿)で袈裟をまとい、左手に如意宝珠、右手に錫杖を持つ形、または左手に如意宝珠を持ち、右手は与願印(掌をこちらに向け、下へ垂らす)の印相をとる像が多い。
しかし、密教では胎蔵曼荼羅地蔵院の主尊として、髪を高く結い上げ装身具を身に着けた通常の菩薩形に表され、右手は右胸の前で日輪を持ち、左手は左腰に当てて幢幡を乗せた蓮華を持つ。
ご利益
地蔵菩薩本願功徳経に説かれるご利益は以下の通りである。
二十八種利益
1. 天龍護念、2. 善果日増、3. 集聖上因、4. 菩提不退、5. 衣食豊足、6. 疾疫不臨、7. 離水火災、8. 無盗賊厄、9. 人見欽敬、10. 神鬼助持、11. 女転男身、12. 為王臣女、13. 端正相好、14. 多生天上、15. 或為帝王、16. 宿智命通、17. 有求皆従、18. 眷属歓楽、19. 諸横消滅、20. 業道永除、21. 去処盡通、22. 夜夢安楽、23. 先亡離苦、24. 宿福受生、25. 諸聖讃歎、26. 聰明利根、27. 饒慈愍心、28. 畢竟成佛
七種利益
1. 速超聖地、2. 悪業消滅、3. 諸佛護臨、4. 菩提不退、5. 増長本力、6. 宿命皆通、7. 畢竟成佛
十王思想との関係
偽経とされる閻羅王授記四衆逆修生七往生浄土経(預修十王生七経)や十王経(地蔵菩薩発心因縁十王経)によって、道教の十王信仰と結びついて地蔵菩薩を閻魔と閻魔と同一の存在であるという信仰が広まった。
閻魔王は地蔵菩薩として人々の様子を事細かに見ているため、綿密に死者を裁くことができるとする。
日本における地蔵信仰
日本においては、浄土信仰が普及した平安時代以降、極楽浄土に往生のかなわない衆生は、必ず地獄へ堕ちるものという信仰が強まり、地蔵に対して、地獄における責め苦からの救済を欣求するようになった。
賽の河原で獄卒に責められる子供を地蔵菩薩が守るという民間信仰もあり、子供や水子の供養でも地蔵信仰を集めた。
また、関西では地蔵盆は子供の祭りとして扱われる。
また道祖神と習合したため、日本全国の路傍で石像が数多く祀られた。
中国おける地蔵信仰
中国においては、地蔵菩薩は十王思想と結びついて地藏王菩薩とも呼ばれ、冥界の教主としても信仰される。
閻魔王として死者を裁くことから、主に死後の(地獄からの)救済を願って信仰される。
日本の神奈川県横浜市中区にも、華僑によって建立された死者の永眠を祀る地藏王廟(中華義荘)がある。
地藏王菩薩の聖地は、安徽省にある九華山である。
これは、新羅の金和尚、金地蔵とも呼ばれる地蔵という僧(696年 - 794年)が、この地にある化城寺に住したことに因むものである。
齢九十九で、この地で入滅した地蔵は、3年後に棺を開いて塔に奉安しようとしたところ、その顔貌が生前と全く変わることがなかったことなどから、地蔵を地藏王菩薩と同一視する信仰が生まれ、その起塔の地が地藏王菩薩の聖地となったものである。
その故事によって、文殊菩薩の五台山、普賢菩薩の峨眉山、観音菩薩の普陀山と並ぶ中国仏教の聖地として、今日まで信仰を集めている。
六地蔵
日本では、地蔵菩薩の像を6体並べて祀った六地蔵像が各地で見られる。
これは、仏教の六道輪廻の思想(全ての生命は6種の世界に生まれ変わりを繰り返すとする)に基づき、六道のそれぞれを6種の地蔵が救うとする説から生まれたものである。
六地蔵の個々の名称については一定していない。
地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人道、天道の順に檀陀(だんだ)地蔵、宝珠地蔵、宝印地蔵、持地地蔵、除蓋障(じょがいしょう)地蔵、日光地蔵と称する場合と、それぞれを金剛願地蔵、金剛宝地蔵、金剛悲地蔵、金剛幢地蔵、放光王地蔵、預天賀地蔵と称する場合が多いが、文献によっては以上のいずれとも異なる名称を挙げている物もある。
いずれにしても、像容のみからそれぞれの地蔵がどれに当たるかを判別することはほぼ不可能である。
日本では、六地蔵像は墓地の入口などにしばしば祀られている。
中尊寺金色堂には、藤原清衡・藤原基衡・藤原秀衡の遺骸を納めた3つの仏壇のそれぞれに6体の地蔵像が安置されているが、各像の姿はほとんど同一である。
古代インド王の転生
過去久遠の昔、インドに大変慈悲深い2人の王がいた。
一人は自らが仏となることで人を救おうと考え、一切智威如来という仏になった。
だが、もう一人の王は仏になる力を持ちながら、あえて仏となることを拒否し、自らの意で人の身のまま地獄に落ち、すべての苦悩とさ迷い続ける魂を救おうとした。
それが地蔵菩薩である。
地蔵菩薩の霊験は膨大にあり、人々の罪業を滅し成仏させるとか、苦悩する人々の身代わりになって救済するという説話が多い。
子供の守護・救済
菩薩は如来に次ぐ高い見地に住する仏であるが、地蔵菩薩は「一斉衆生済度の請願を果たさずば、我、菩薩界に戻らじ」との決意でその地位を退し、六道を自らの足で行脚して、救われない衆生、親より先に世を去った幼い子供の魂を救って旅を続ける。
幼い子供が親より先に世を去ると、親を悲しませ親孝行の功徳も積んでいないことから、三途の川を渡れず賽の河原で鬼のいじめに遭いながら石の塔婆作りを永遠に続けなければならないとされる。
賽の河原に率先して足を運んでは鬼から子供達を守ってやり、仏法や経文を聞かせて徳を与え、成仏への道を開いていく逸話は有名である。
このように、地蔵菩薩は最も弱い立場の人々を最優先で救済する菩薩であることから、古来より絶大な信仰の対象となった。
施餓鬼法要との関係
また後年になると、地蔵菩薩の足下には餓鬼界への入口が開いているとする説が広く説かれるようになる。
地蔵菩薩像に水を注ぐと、地下で永い苦しみに喘ぐ餓鬼の口にその水が入る。
仏教上における餓鬼は、生前嘘を他言した罪で燃える舌を持っており、口に入れた飲食物は炎を上げて燃え尽き飲み食いすることは出来ないが、地蔵菩薩の慈悲を通した水は餓鬼の喉にも届き、暫くの間苦しみがとぎれると言われている(その間に供養を捧げたり得の高い経文を聞かせたりして成仏を願うのが施餓鬼の法要の一端でもある)。
これは六道全てに隔てなく慈悲を注ぐと言われる地蔵菩薩の功徳を表す説であり、施餓鬼法要と地蔵菩薩は深い関係として成立していった。
仏教上では、非道者で仏法を否定、誹謗する者を一闡提(略して闡提)というが、これには単に「成仏し難い者」という意味もあることから、一切の衆生を救う大いなる慈悲の意志で、あえて成仏を取り止めた地蔵菩薩や観音菩薩のような菩薩を「大悲闡提」と称し、通常の闡提とは明確に区別する。
道祖神との関係
先に述べた「六地蔵」とは六道それぞれを守護する立場の地蔵尊であり、他界への旅立ちの場である葬儀場や墓に多く建てられた。
また道祖神信仰と結びつき、町外れや辻に「町の結界の守護神」として建てられることも多い。
これを本尊とする祭りとして地蔵盆がある。
また道祖神のことをシャグジともいうことから、シャグジに将軍の字を当て、道祖神と習合した地蔵を将軍地蔵(勝軍とも書く)とも呼ぶようになった。
西遊記
なお、民間説話である西遊記では冥界を司るとして地藏王菩薩が孫悟空(斉天大聖)の暴れっぷりを地獄から天の玉皇大帝に上奏するとして描かれている。
真言
オン カカカ ビサンマエイ ソワカ(唵 訶訶訶 尾娑摩曳 娑婆訶)
垂迹神
神仏習合のもとで地蔵菩薩の本地垂迹とされる神としては、愛宕神やアメノコヤネがいる。
各種地蔵名
病苦の身代わり
化粧地蔵
おしろい地蔵
洗い地蔵
赤地蔵
味噌なめ地蔵
あごなし地蔵
塩地蔵
あんこ地蔵
首なし地蔵
首切り地蔵
足切り地蔵
紙張り地蔵
腰折地蔵
咳止め地蔵
生木地蔵
ぬりこべ地蔵
目洗い地蔵
くろかね焼地蔵
子宝・子育て守護
賽の河原地蔵
子育て地蔵・子安地蔵
子守地蔵
三体地蔵
腹帯地蔵
厄除け
釘抜き地蔵
とげぬき地蔵
引導地蔵
水子地蔵
六地蔵
苦抜き地蔵
毛替り地蔵
船乗り地蔵
災難予知・危難防御
汗かき地蔵
しばられ地蔵
芋地蔵
火焼け(ほやけ)地蔵
延命・開運・勝利
延命地蔵
首つぎ地蔵
勝軍地蔵
日限地蔵
開運地蔵
無尽地蔵
地蔵菩薩を祀る主な寺院
国宝
法隆寺(奈良県斑鳩町) - 平安時代前期、(大御輪寺旧蔵)
重要文化財(国指定)
木之本地蔵院(浄信寺)(滋賀県伊香郡木之本町) - 日本三大地蔵尊、鎌倉時代
広隆寺(京都府京都市) - 平安時代(埋木地蔵)
六波羅蜜寺(京都府京都市) - 鎌倉時代、運慶作(推定)
六波羅蜜寺(京都府京都市) - 平安時代(鬘掛地蔵)
浄瑠璃寺(京都府木津川市) - 平安時代
帯解寺(奈良県奈良市) - 鎌倉時代(帯解子安地蔵)
東大寺(奈良県奈良市) - 鎌倉時代、公慶堂安置、快慶作
東大寺(奈良県奈良市) - 鎌倉時代、念仏堂安置、康清作
福智院(奈良県奈良市) - 鎌倉時代
伝香寺(奈良県奈良市) - 鎌倉時代(法服地蔵)
室生寺(奈良県宇陀市) - 平安時代(五尊像の一つとして)
宝戒寺(神奈川県鎌倉市)- 仏師憲円の作。
その他
高岩寺(東京都豊島区) - 巣鴨とげ抜き地蔵尊
建長寺(神奈川県鎌倉市) - 地蔵菩薩を本尊とする
壬生寺(京都府京都市) - 地蔵菩薩を本尊とする
如意寺 (神戸市)(兵庫県神戸市) - 地蔵菩薩を本尊とする
圓宗院(神奈川県平塚市)- お助け地蔵尊
地蔵菩薩に関連する仏典
地蔵三経
地蔵菩薩本願経
大乗大集地蔵十輪経
占察善悪業報経
中国で成立したとされる偽経
閻羅王授記四衆逆修生七往生浄土経
地蔵菩薩発心因縁十王経
日本で成立したとされる偽経
仏説延命地蔵菩薩経