神饌 (Shinsen (Food and Alcohol Offering to the gods))
神饌(しんせん)とは、日本の神社や神棚に供える供物の事である。
御饌(みけ)あるいは御贄(みにえ)とも言う。
神饌には、調理して供える熟饌(じゅくせん)と、生のまま供える生饌(せいせん)とがある。
熟饌の調理には、本来は燧石、舞錐式などで起こした神聖な炎(忌火・いみび)のみを使う。
神社などでは、米、塩、水、野菜、鯛、鰹節(干鰹)、海藻、果物、清酒などを供える。
基本的には、かわらけと呼ばれる素焼きの焼き物を器にするが、地域によってはアワビの貝殻を代用する場合もある。
本来、朝夕の2回供えるが、地域によって異なっている。
祭儀の後に供えた神饌を食べる宴のことを直会(なおらい)という。
直会には、神の供物を食べることで神に近づくという意味もあるが、人が食べることのできないものは供えてはいなかったという証明でもある。
ただ、厳密に言うならば、献饌された神饌が必ず直会にあがるという訳ではない。
献饌し終わった神饌を神体山へ投げる、土中に埋めるなどの行為が今現在でも一部見られる。
各々神饌に対しての礼儀作法、考え方が異なっていたこと、それらが今でも継承されてきたことが伺える。
特殊神饌
現在、多くの神社における神饌は生饌が多く扱われているが、有名古社や古い神事を継承し続けている神社においてはきわめて珍しい形式の神饌を献饌していることがある。
便宜上、それらは特殊神饌と呼ばれ、熟饌を中心とした、調理されたものが献饌されている。
(神社祭式に規定されたものを基準として考えているので、それまで存在していた古式の神饌は「特殊」という括りで称されるようになった。
明治維新を境にした神社祭式の刷新と神社の在り方・神道のあり方が大きく影響を及ぼしている)
一例を挙げるならば、以下のようなものがある。
奈良県奈良市 春日大社 春日若宮おん祭り 『御染御供』
奈良県奈良市 春日大社 春日祭 『御戸開八種神饌』『御棚神饌』
奈良県奈良市 率川神社 率川祭 『率川祭神饌』
奈良県桜井市 多武峰 談山神社 嘉吉祭 『百味御食』
京都府京都市 賀茂御祖神社・賀茂別雷神社 葵祭 『内陣神饌』『外陣神饌』『庭積神饌』
三重県伊勢市 伊勢神宮 『由貴大御饌』
滋賀県大津市 日吉大社 山王祭 『粟津御供』
島根県松江市 美保神社 青柴垣神事 『青柴垣神事神饌』
新潟県弥彦村 彌彦神社 灯篭神事 『大御膳』
長野県諏訪市 諏訪大社 御頭祭 『御頭祭神饌』
千葉県香取市 香取神宮 大饗祭 『大饗祭神饌』
近畿地方などでは小さな社でも特殊神饌を献饌する神事・祭祀儀礼を伝承・継続しているところがある。
神道学・民俗学・食文化研究などの研究対象になることも多い。
各々の特殊神饌は、各社の地域産業や神社経済、信仰の在り様、祭祀儀礼の意義など複雑な要素が見え隠れしている。
日本人が生み出した食文化の一つとして着目すべき宗教現象だと言えると思われる。