ちゃんこ鍋 (Chankonabe (Weight-gaining stew for sumo))

ちゃんこ鍋(ちゃんこなべ)とは、主に大相撲の力士や日本のプロレスラーが食べる鍋料理である。

なお「ちゃんこ」とは本来、力士の食事そのものの事を指す。
鍋だけがちゃんこと思われがちだが、それは誤りである(後述)。
しかしながら、力士の食事は、相撲を行うための体格を身につけるために、鍋料理を食べることが多く、それが広く知れ渡ったのがちゃんこ鍋である。

「ちゃんこ」と「ちゃんこ鍋」

相撲部屋でのちゃんこの調理は、ちゃんこ番の力士が「ちゃんこ長」を務め、主に幕下以下の力士が自ら調理を行う。
長年ちゃんこ番をしている力士がちゃんこ長を務めるという伝統から「料理がうまい力士は出世しない」と言われることがある。
しかし力士が廃業した後、そこで身に着けた調理法を活かし、ちゃんこ料理屋を開業して主にちゃんこ鍋を提供することが多い。
そこから広く一般的に知れ渡っている(外食産業としてのちゃんこ鍋)。
プロレスラーの場合はプロレス団体の道場において、当番の若手レスラーや練習生が作るのが一般的である。

ちゃんこ鍋は昔からそっぷと呼ばれる鶏ガラで出汁をとることが多いが、これは人間と同じように二本脚で立つ鶏から縁起を担ぐ意味も込められている。
また鶏ガラが細身であることから、現在でも細身の力士をそっぷと呼んでいる(肉付きがよく下腹に締まりがない力士は「あんこ (相撲)」)。
これに関連し、古くは「手をつく」=「負ける」という連想から、縁起を担ぐためウシやブタなどの四足動物の肉を使うことは避けていたが、現在では使われている。
また白星を連想させることから、具としてミートボールを入れることが一般的になっている。

ちゃんこ鍋のベースとなる味付けは、醤油や味噌だけでなく最近では塩もあり、特定の味付けは存在しない。
相撲部屋によってはキムチやカレー粉、クリームソースなどを用いて飽きがこないように工夫し、数多のバリエーションを作り出しており、各相撲部屋ごとに、その部屋独特の作り方もある。
なお相撲部屋においては常食となっているため、中に入っている具も取り立てて、これが入ってなければならないというものはないが、タンパク質摂取のため肉や魚が具の中心となっている。
場合によっては他の鍋料理(水炊き・すき鍋・ちり鍋など)をそのまま流用して調理することも多い。
また、近年では各種生活習慣病を予防する観点などから、栄養士の指導の元、野菜類などを多めに入れ、栄養バランスに配慮したものを作っている部屋も珍しくない。

ただし料理店で出されるちゃんこ鍋については、伝統的なイメージからか上述の肉団子や、キャベツやハクサイ、うどんなどが入っている事が多い。
またそれぞれ主たる材料や味付けに合わせて、「鶏ちゃんこ」とか、「味噌ちゃんこ」といった言い方をする。

語源と発祥

「ちゃんこ」の語源には諸説様々な話があり、現在でも特定されていない。

まず、「ちゃん」が中国のことで「こ」が中国語で鍋のことだという説がある。
これは長崎で鉄製の大きな中華鍋を「チァングオ」と呼んでいて、長崎に巡業した力士が料理をその鍋で作ったことにより、後に訛って「ちゃんこ」と呼んだとされる。

また「ちゃんこ」は中国そのものを指す言葉だという説もあるが、これは「鍋」と「国」は中国語で似た音だからである。
長崎の人が中国から来た鍋を「中国(ちゃんこ)鍋」と呼んでいて、当地に巡業した力士がその料理を「ちゃんこ鍋」と呼んだのではないかというのである。
長崎ではこの鍋の名は、後に略して「ちゃんこ」となったとする(カボチャの名前の付け方と同様とされる)。

これとは別に、親方と弟子の関係から親方を「父(ちゃん)」弟子を「子(こ)」と置き換え、師弟共に食べるものを「ちゃんこ」と呼ぶようになった説もある。

さらに、マレー語のcampur(チャンポール)→チャンプルー(沖縄)→チャンポン(長崎)から由来したとの説もある。

ただ、いずれの説にせよ既に「ちゃんこ」という言葉が使われていた頃から、言葉の意味としては鍋料理ではなく力士の食事全般を指していたようである。

鍋料理としての「ちゃんこ」が確立されたのは明治時代である。
常陸山谷右エ門が所属していた頃の出羽海部屋において入門者が大量に集まり、一般的な配膳では食事に支障をきたすまでになった。
効率的な面から大きな鍋で作ったものを大勢で共に食べるようになり、これがやがて力士の常食になったと言われている。

なお常陸山は料理番をしていた古参の力士に対し、親しみも含めて「父公(ちゃんこう)」と呼んでいた事も伝えられている。

日本プロレス界にもちゃんこを持ち込んだのは始祖である力道山で、豊登道春や芳の里淳三など角界出身者が多かったことに由来する。
やはり角界出身のグレート小鹿(現・大日本プロレス社長)や大熊元司ら元日本プロレス(日プロ)勢が多く在籍していた全日本プロレスは日プロの味を踏襲している。
新日本プロレスでは1980年代末からの一時期、若手レスラーが「ちゃんこ番が大変です」との理由から、副社長だった坂口征二が調理人を道場の管理人兼任で雇っていた(現在は賄い人と若手レスラーの共同作業という)。

外食産業としてのちゃんこ鍋

ちゃんこ鍋は外食産業の一分野としても成立している。

ちゃんこ鍋屋、ちゃんこ料理店と呼ばれる形態の店舗は外食産業の中でも比較的古くより存在しているもので、これについては大相撲を引退した関取や、関取までは成れなくとも力士時代はちゃんこ番として長年腕を振るった力士が、力士引退後に転業したものが多い。
店舗の名称については自身の力士時代の四股名の他にも、知名度を借りる形で付け人をしていた関取や、出資者となった関取、親方の現役時代の四股名などが主に用いられる。
また、成立の経緯からして相撲文化と直結している料理であり、このため両国 (墨田区)界隈の他、地方場所の開催がある大都市、名古屋、大阪、福岡などにはちゃんこ料理店が多い。
また、この様な店であるため、とくにちゃんこ番経験のある力士にとっては、自身で開業はしなくとも力士引退後の再就職先となる事も珍しくない。

この事もあり、上述されている通り両国界隈および相撲開催のある土地がちゃんこ料理屋の中心地とも言える場所となっているが、昭和後期以降には広範囲にチェーン展開を行う企業も見られている。
近年では元横綱若乃花の花田勝が経営する株式会社ドリームアークが「Chanko Dining 若」というブランド名で全国規模どころか海外進出までをも果たし、さらには大相撲の懸賞の提供企業になるなどしており、2000年以降のこの業界では台風の目ともいえる存在になっている。

派生した俗語

「ちゃんこの味がしみてない」は、入門後間もなく発展途上であったり、相撲界のしきたりになじみきれていない力士を指してよく言われる。
近年では学生相撲からスピード出世した関取に対して揶揄的な意味でも用いられる。
もともとは、若乃花幹士 (初代)の二子山の口癖であったとも、相撲解説者の玉ノ海梅吉の言葉だったとも伝わる。

古くは後援者からの祝儀の意味もあった。
「これでちゃんこでもしてくれ」などの様に言ったが、それも一回の食事代くらいのものではないのが通例だったらしい。
大関昇進後間もない栃錦清隆が、「ちゃんこだ」と言われて紙包みを押し付けられ、弁当か何かかと思ってみてみると100万円だったという逸話が、自伝の中に見える。

[English Translation]