一反木綿 (Ittan-momen)
一反木綿(いったんもめん)は、鹿児島県肝属郡高山町(現・肝付町)に伝わる妖怪。
概要
約一反(長さ約10.6メートル、幅約30センチメートル)の白い布の姿の妖怪で、夜空を飛んで人を襲うという。
首に巻きついたり顔を覆ったりして、そのまま窒息死させてしまうこともあるという。
また、巻かれた反物のような状態でくるくる回りながら素早く飛来し、人を体に巻き込んで空へ飛び去ってしまうともいう。
妖怪漫画家・水木しげるの説では付喪神の一種とされる。
ある男が夜に家路を急いでいたところ、白い布が飛んで来て首に巻きつき、脇差しで布を切りつけたところ、布は消え、男の手には血が残っていたという伝承もある。
出没の伝えられる地方では、子供が遅くなるまで遊んでいると「一反木綿が出るよ」と言って戒める風習もあったそうである。
古典の妖怪絵巻などには描かれていないために、かつては比較的無名な妖怪だったが、水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』に登場してから一躍、名が知られることとなった。
現在では同作での九州弁のトークと気のいい性格から知名度も高く、人を襲うという本来の伝承とは裏腹に人気も高い。
水木の出身地・鳥取県境港市の観光協会による「第1回妖怪人気投票」では1位に選ばれた(『鬼太郎』でのキャラクターについては一反木綿 (ゲゲゲの鬼太郎)を参照)。
なお水木の妖怪画では『鬼太郎』に登場するキャラクターのように、2つの目と2本の腕を持つ布の姿で描かれているが、これはあくまで創作であり、実際の伝承や後述の目撃談では目も腕もなく、単に布に似た飛行物体とされる。
古典の妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』に描かれた妖怪の一つに、手足の生えた布状のものがあるが、民俗学者・小松和彦はこれを一反木綿のルーツにあたるものとの仮説を立てている。
近年の目撃談
妖怪研究家・山口敏太郎の調査によれば、近年においても一反木綿を思わせる布状の飛行物体の目撃談は多い。
伝承地の鹿児島では、低空を飛ぶ白い布のような物体が目撃されている。
同じ九州の福岡県では、新幹線と併走するように猛スピードで飛ぶ一反木綿が、新幹線の乗客により目撃されている。
九州以外でも、東京都の東高円寺駅や荻窪 (杉並区)でも目撃されている。
東高円寺では犬の散歩中の女性が空を飛ぶ布を目撃し、しばし追跡したという。
静岡県である小学生が目撃したものは、透明なシーツ状でゆらゆらと動いており、全体の形状は長方形に近いが先端が尻尾状に細くなっていたという。
2004年には兵庫県のUFOビデオ撮影友の会が、六甲山上空に正体不明の布状の飛行物体を撮影した事例があり、その大きさは30メートルもの巨大なものだったという。
俳優・佐野史郎はドラマ『巷説百物語京極夏彦「怪」』の撮影中、撮影所の空に舞う一反木綿を目撃し、その姿は長く白い布状だったという。
同種の妖怪
衾(ふすま)
佐渡島に江戸時代に多く出没したと伝わる一反木綿の一種。
大きな風呂敷のような姿の妖怪で、夜道などでどこからともなく飛来し、いきなり通行人の頭にかぶさってくる。
どんな鋭い刀でも切ることはできないが、一度でもお歯黒をつけた歯なら噛み切ることができる。
そのため佐渡では、男性でもお歯黒をつける慣わしがあったといわれている。
布団かぶせ(ふとんかぶせ)
愛知県佐久島。
民俗学者・柳田國男の著書に「フワッと来てスッと被せて窒息させる」とあるのみで、伝承が少なく謎が多い。
ただ、布団状のものが飛んできて顔面にかぶさって窒息させるものとの解釈がある。