人情噺 (Ninjo-banashi (Sentimental Story))
人情噺(にんじょうばなし)とは、落語の演目の中のひとつのカテゴリである。
解説
落語は、狭義では落ちを伴う「落とし噺」(滑稽噺)と理解されることもあるが、実際の演目には人情噺、怪談噺なども含まれる。
ただし、その人情噺の定義も広義と狭義とに分かれる。
最初に演じたのは朝寝坊むらくだといわれている。
桂米朝 (3代目)は自著「落語と私」において人情噺の定義をかなり狭く捉えている。
すなわち、講談における「世話物」(町人の世界を題材とするカテゴリ。武家を扱った「時代物」に対する)を、講談のように説明口調で口演するのではなく、(登場人物になりきって)感情を入れながら喋るものである。
一席では口演し切れない長編が多く、サゲが存在しない―として、サゲのある落とし噺と区別している。
広義での人情噺においては、構成は落とし噺同様マクラ、本題、サゲから成り、一席で完結するものも含まれる。
題材は(米朝見解による)狭義の人情噺同様、町人の世界を舞台にするが、親子愛、夫婦の情愛、江戸っ子ないしは浪花っ子の人情、身分違いの悲恋など情に訴えるものを扱う。
おかし味だけでなく感銘を受けるストーリーの展開になっている。
くすぐりやサゲで笑いを取るが、全体的にはほろりとさせられる噺である。
明治期に東京から大阪に移った三遊亭圓馬2代目と翁家さん馬5代目が人情噺を上方で演じ伝えた。
代表的古典作
代表的な演目には、サゲのないものでは、続き物の長編が『牡丹灯籠』(一般には怪談噺に位置付けられる)、『塩原多助一代記』、『真景累ヶ淵』、『安中草三』、『双蝶々』、『ちきり伊勢屋』、『業平文治』、『怪談乳房榎』、『お富与三郎』、一席物は『文七元結』、『三井の大黒』、サゲのあるものでは『芝浜』、『子別れ』(『子は鎹』はその後編)、『紺屋高尾』、『唐茄子屋政談』(上方の『南京屋政談』)、『お直し』、『鼠穴』、『富久』、『火事息子』、『柳田格之進』、『鰍沢』、『立ち切れ線香』などがある。
本来上方落語には人情噺を演じ手がいなかったが、上方には『油』、『鬼あざみ』、『子別れ』、『ざこ八』、『しじみ売り』、『土橋万歳』などの人情噺が伝わっており、近年では上方落語家が東京の人情噺を積極的に移植している。
近年作
昭和には有崎勉(柳家金語楼)作『ラーメン屋』、3代目桂米朝作『一文笛』、平岩弓枝作『笠と赤い風車』などの新作人情噺が創作された。
この動きは平成になっても三遊亭圓丈らにより受け継がれている。
近年では、三遊亭圓生 (6代目)、古今亭志ん生 (5代目)、林家彦六がそれぞれ人情噺の名人とされた。
また古今亭今輔 (5代目)も新作派と目されていたが、レベルの高い人情噺を演じていた。
現代では桂歌丸、立川談志、三遊亭圓楽 (5代目)がそれぞれ人情噺を得意としている。