伎楽面 (Gigaku-men Mask)
伎楽面(ぎがくめん)は伎楽につかわれた仮面のこと。
世界最古に属する面としてその歴史的意義は大きい。
また近年、新伎楽に使用するため復興された伎楽面もある。
歴史的な伎楽面
歴史的な伎楽面は、奈良の法隆寺(現在は東京国立博物館法隆寺宝物館に収蔵)、東大寺、正倉院、春日大社などに飛鳥時代および奈良時代の遺品が残っている。
このうち正倉院に残る天平勝宝の年号をもつものは、大仏開眼法要の時に使われたものである。
伎楽の役柄に応じて、治道、獅子、獅子児、呉王(または呉公)、金剛、迦楼羅(かるら)、呉女、崑崙(くろん/こんろん)、力士、波羅門(ばらもん)、大孤父(たいこふ)、大孤児、酔胡王(すいこおう)、酔胡従の14種類が確認されている。
大きくわけて木彫と乾漆(型にうるしを塗り固め素地をつくったもの)があり、木彫は飛鳥時代のものがおおむねクスノキ、奈良時代がキリをつかって作られている。
伎楽面は、能面などにみられる顔をおおうだけの形態とちがって、頭からすっぽりかぶるものであった。
この特徴からギリシャ悲劇の仮面との共通性が指摘され、伎楽の伝来がギリシャであるという説もとなえられたが、詳細は不明である。
のこされた面にある記銘から伎楽面の作者も知られている。
将李魚成、基永師、延均師、財福師などである。
また面の裏面に「讃岐」「常陸」などの国名がみられ、地方から献納されたものであることがわかる。
伎楽面は造形的にもすぐれ、仏師の手になるものもあるといわれている。
一見した印象では架空の動物や、当時の諸外国人の表情をつたえたものであるという感じをうける。
以下に正倉院に伝わる伎楽面から、いくつか選んで特徴をしめす。
獅子
現在の獅子舞の頭(かしら)によく似ている。
顎のところは、上下に開閉できるようになっている。
呉公
中年男性のおだやかで威厳のある表情。
呉公の名がしめすように、中国人の特徴をよくつたえている。
呉女
ふっくらした下ぶくれの女面。
唐代に流行した髪形をしており、当時の美女の典型だったと思われる。
大孤児
いきいきした少年の表情の面。
くっきりした目元と白い歯が印象的。
崑崙
正倉院には対照的な二面がある。
一面は全体に黒みがかった色で大きな目玉、しっかりした口元で黒人のような感じをうける。
他の一面は、全体が白く、大きな目玉、はねあがったひげ、大きくとがった耳から人間というより獣の印象。
酔胡従
大きく高い鼻、ぶあつい唇、太い眉毛をもち、「胡国(ペルシャ)」の人をイメージしたものではないかと思われる。