打ち水 (Uchimizu)
打ち水(うちみず)とは、庭や道路など屋外に水を撒く、昔からの日本の風習である。
また、その撒く水のことを指す。
概要
打ち水には、道路などの埃を抑える効果があり、また夏場には、涼気をとるためにも行われる。
撒いた水が蒸発することで熱を奪い、それによりわずかではあるが、気温を下げる効果があるからである(気化熱:水1gの蒸発につき約0.58kカロリーの熱が奪われる)。
東京都などが都市部のヒートアイランド対策として、数十万人の都民がいっせいに打ち水を行うという計画を進めている。
また、政府も地球温暖化対策キャンペーンの一環として打ち水を奨励しているほか、全国各地のNPOや市町村などもこぞって打ち水を計画・実行している。
これら最近のキャンペーンでは「環境に配慮して、出したばかりの水道水を使わず、風呂などの残り水を二次利用しましょう」という注意がよく見られる。
蛇口から出る新しい水を直接利用するのではなく、あえて使い古した水を再利用することにより無駄を減らし、なおかつ涼も得るという、一石二鳥の考え方である。
なお、使い古した水といっても、排尿等汚水をまけば良いというものではない。
前日の浴槽の残り湯を、打ち水に転用するのが一般的と思われる。
近年、水道局もこうした打ち水イベントに取り組みつつある。
その一例が下水再生水の無償提供である。
下水再生水はそれ自体が飲用できないため、用途が必然的に限られてくる。
その水を水道局が提供し、打ち水に役立ててもらおうというもので、少しずつではあるが、配布する水道局が年々増えつつある。
また人間の手による打ち水に加え、一部の都市では保水効果を高めるため道路に追加舗装をしたり、散水車を巡回させ水を撒いているところもある。
また、打ち水には場を清める神道的な意味合いがあり、玄関先などへの打ち水は「来客への心遣い」のひとつであった。
かつて、日本では風習として行われていたが、近年ではこういった心遣いの風習は廃れつつある。
打ち水のコツ
打ち水の効果については前述通りであるが、やり方を間違えるとこの効果が得られないことがある。
まず第一に打ち水を行う時間であるが、一般的に朝夕の日が高くない状態で行うのが好ましいと言われている。
夏の気温が高い状態でアスファルトに打ち水をしても、水はすぐに蒸発してしまい、気化熱による気温上昇の抑制効果が得にくいためである。
朝夕の比較的気温が低い時間に行うことにより、その効果を持続させることができる。
また、ホースなどで大量に撒くのもあまり好ましいとは言えない。
日本では、湿度の高い気候を利用し、除湿機で溜めた水を撒くという方法もある。
打ち水のコツとしては、朝夕の涼しい時間帯に地面や家の壁などに、バケツなどにためた水を少量ずつ撒くのが良い。
茶道における打ち水
茶道においては、三露として初水・中水・立水の露地の打ち水が、季節とは関係なく行われる。
茶会や茶事のおり、亭主(主催者)側は、すべての準備がととのい、客を迎えてもよい状態になってはじめて玄関に水をうつ。
客は玄関に水が打ってあるのを確認して、茶会や茶事を行う家に入っていくのである。
京都における打ち水
1970年代頃まで、京都の町中(まちなか、ここでは、市内の住宅と商家が密集している地区で、かつ伝統的なコミュニティーが残存しているところを指す)では、打ち水はかどはき(自家の前を掃ききよめること)とともに、毎朝の大切な仕事であった。
京都では打ち水というより、水まきというほうが多かったように思われる。
一家の主人や主婦、隠居、子供、奉公人(その家によって担当する人は色々である)が早朝に家や店の前を清掃し、その仕上げとして、水をまく。
その結果、町内の道路がきよめられ、しっとりと水をふくむという状態になった。
ただし、道路が凍るおそれのある真冬は行わなかった。
いわゆる「かどはき」「水まき」は、自分の家の前だけで、隣にまでおよんでは失礼であるという暗黙の了解もあった。
家によって、朝の清掃の時間が異なるので、自家がはやくすませたからといって、隣家の分まで行うのは、結果的に隣家に心理的な負担をあたえかねない。
上記の暗黙の了解はこうした気遣いからである。
夏場は朝だけでなく、夕方も打ち水を行った。
昼間の熱気をさまし、涼しさをよぶためである。
ただし、水をまく時間をあやまると、水蒸気があがりよけいに蒸し暑くなるということもある。
従って、その日の天気によって微妙に時間をかえなければならないなど、案外難しい。
1960年代中頃まではバケツに水をくみ、ひしゃくで水をまくことが普通であったが、1970年代頃になると、水道からホースをひいてまく家も増えた。
しかし、その後、伝統的なコミュニティーが失われていくにつれ、次第に町内の道路すべてが水をふくんでしっとりとぬれているという状態はなくなっていった。
現在(2005年)ではごく少数の伝統をまもる家、老舗などが朝夕の打ち水をおこなっているという状態である。