班女 (Hanjo)

『班女』(はんじょ)は世阿弥作と考えられる能の一つである。
紅入り(若い娘)の狂女物だが、クルイ(激し乱れた心を表現する舞のパターン)の部分がない。
ひたすら扇に恋人を偲ぶ姿が舞と謡で表現される。

扇物狂いと呼ばれる程、扇が目立つ。
秋の扇は砧 (能)と並んで侘びしいものであった。
「班女」の謂れは中国の班婕妤(はんしょうよ、「しょう」は女偏に捷の右側、「よ」は女偏に予)である。
班は前漢の成帝の愛人であった。
趙飛燕にその座を奪われれ、捨てられた我が身を秋の扇になぞらえて詩『怨歌行』を作った。

狂言口開でアイによって班女の名の由来と、吉田の少将との恋がてきぱきと説明される。
遊女である班女は本名を花子(はなご)という。
扇を愛好し班女と呼ばれた。
班女は京より東下りの吉田の少将と恋に落ち、互いに扇を取り交わす。
少将が旅立って以降班女は酌も取らずに扇を見つめている毎日である。
そのため宿から追い出されてしまう。

ワキ(吉田の少将)が現われ、都からまた野上に来たと道行きを説明する。
ところが契ったはずの花子はいない。
「花子が京に来る事があれば立ち寄ってくれ」と言付けて京に向かう。

ここで場面は京都に移る。
一声(シテの登場を示す笛の吹奏パターン)があり、後ジテが現われる。
恋に泣く身を『いかに狂女なにとてけふは狂はぬぞ面白ろう狂ひ候へ』などと神社で見物人にからかわれる始末である。
ところが片時も離さなかった扇に眼を留めた男があった。
形見の扇に恋人を偲び中国の古籍をふんだんに引用した謡とともに序ノ舞(現在では中ノ舞)を舞う班女。
男は(オリジナルではツレを介して)声をかけるが「これは愛しい人の形見だから」と拒否される。
さらに声をかけ、扇を見せあった。
それが少将との再会であった。
『それぞと知られ白雪の、扇のつまの形見こそ、妹背の中の情なれ、妹背の中の情なれ。』(トメ拍子)。

資料

岩波書店 日本古典文学大系 『謡曲集』上 「世阿弥の能」。
謡の引用部分は同書第四刷、p.344, 第六行及び p.347, 最終二行。

関連作品

隅田川 (能)が悲しい後日談になっている。

三島由紀夫の近代能楽集の題材になった。

[English Translation]