ふんどし (Fundoshi (traditional Japanese underwear))
褌(ふんどし)は、日本をはじめとする地域での伝統的な男性用の下着である。
英語では loincloth と表記されている。
祭りの中において褌は下着ではなく、晴れ着として扱われる。
百貨店、呉服、武具、祭、通信販売などで販売されている。
概要
「褌」の漢字は「衣」偏に「軍」と書くように、戦闘服に由来する。
昔は布が高価であったことから、戦国時代 (日本)では戦死者の身分は褌の有無で見分けを行っていた。
当時は麻が主流であったが、江戸時代に入り木綿に代り、武士の他に一般庶民にも普及するようになった。
一部の上流階層は縮緬などを用いていた。
第二次世界大戦までは日本人成人男性の主な下着となっていたが、戦後、洋装化が進んだことや、ブリーフ、トランクス等の新しい下着が出現したことで、急速に廃れた。
褌の由来は南方伝来説と大陸伝来説があるが、定説はない。
南方伝来説の根拠は、東南アジア、ポリネシアや南アメリカ地区で六尺褌とほぼ同形状のものがあることから言われる説である。
一方、大陸伝来説は、中国大陸に「特鼻褌」(とくびこん)と呼ばれる、男性の局部が牛の鼻のように見える褌が日本に伝来したとの説がある。
日本の祭事に六尺褌が多いのは、南方伝来の六尺褌が根底文化にあり、大陸文化との折衷が始まり、時代を経て簡略化された越中褌が生まれたとの説が一部で唱えられている。
語源
「踏通(ふみとおし)」「踏絆(ふもだし)、馬や犬を繋ぎ止める綱」「絆す(ほだす)、動かないよう縄等で繋ぎ止める」から由来するという説が一般的である。
元来日本語には「ん」という発音の言葉がなかったことから、漢語の「褌衣」を韓国語化した「Hun-t-os,(フントス)」からくるという説もある。
また古語においてはふんどしは「犢鼻褌(たふさぎ)」といった。
これの由来についても「股塞ぎ(またふさぎ)」「布下げ(たふさげ)」「タブ(樹皮布)裂き」など諸説ある。
アイヌ語で「テパ」(tepa)と呼ぶのも同じ語源からくるのではないかと思われる。
九州の方言で「兵児帯」(へこおび)と呼ぶのは「へのこ」(陰茎の意)からくる。
材質
一般的には木綿の晒布が多く使用される。
他に、新モス、スフ、絹(シルク)、麻 (繊維)等も使用される。
着装感は生地の目が粗いものが柔らかく、生地が細かいものは硬めの感触となり、下着には目の粗い生地が用いられている方が多い。
色は白色が多いが、赤、青などの色生地も使用されている。
、他に柄物などもある。
種類
褌の種類は六尺褌、越中褌、畚(もっこ)褌、割褌、黒猫褌などの種類があり、締め方や形状が大きく異なる。
柄や色のある物も多い。
医療用の下着である越中褌T字帯も褌に含まれる。
六尺褌
六尺褌は、長さ約180cm~300cm程度、幅約34cm~16cmのさらしの布を用いた日本人男性用の下着。
臀部が露出していることに特徴がある。
現在では、下着に用いられるよりも、主に祭事や水着などで使用されることが多い。
詳細は六尺褌を参照。
越中褌
越中褌は、長さ100cm程度、幅34cm程度の布の端に紐をつけた下着。
一部では和製英語の越中褌クラシックパンツ、サムライパンツとも呼ばれている。
医療用の下着である越中褌T字帯も越中褌の一種。
禊の時に使われる場合が多い。
その他、一部の裸祭りでは六尺褌に代って、こちらが使われる場合がある。
詳細は越中褌を参照。
畚(もっこ)褌
長さ70cm程度、幅34cm程度の布の両端に紐を通したもの。
土木工事等で土を運ぶ畚に形状が似ているためこの名がついたといわれる。
歌舞伎の女形は、普段から、これを着用。
割褌
六越褌、とも呼ばれる。
長さ150~160cm幅30~40cm程度の布を使用し、片一方の布端を約55~60cm程真中から切ってある褌。
切った部分を腰に巻く。
六尺褌と越中褌の中間的な物。
戦国~江戸時代に掛けて一部の武将や大名に愛用された。
黒猫褌
戦前の水泳の授業などで使われた子供用の水褌(水着としての褌)。
広島県、長崎県では「キンツリ」、「三角兵子」と呼ばれる。
畚(もっこ)褌の一種でTバックになる。
大人はサポーターとして用いる場合が多い。
昭和初期頃より登場し、簡易褌と呼ばれる。
生地は黒色の麻が用いられていた。
名称の由来や出現は不明であるが、「黒猫」の名称は生地の黒色に由来している。
国民皆泳が叫ばれ水泳が学校の教科として取り上げられたことで、幼児~小学生用の水着として全国に普及し、昭和30年代頃まで各地で散見されていた。
廻し
廻しは、日本の国技・相撲や一部の裸祭り、奉納相撲に使われる特殊な褌。
色・材質・締め方が他の褌とは異なる。
詳細は廻しを参照。
締め込み
福岡市博多区で毎年7月に行われる博多祇園山笠や、その他の裸祭りの装束として使われる褌。
締め方や材質は、博多では廻しに近い。
.但し、生地の厚さは晒と廻しの中間くらい、薄めの帆布や重ねた木綿の洋服地に近い。
前垂れを出す場合が多い。
博多以外では5mの、さらしを廻しと同様に締め込む場合が多い。
何れの場合も横褌の幅を広くし(7~12cm)、後の結び目を廻しと同様にする。
廻し、六尺褌、九尺褌、晒一反を指す場合もある。
晒一反
下帯、とも呼ばれる、さらし1反分(10m)を、丸ごと使うふんどし。
1枚の布で褌と腹巻きを兼ねる。
着物用の下着として使われる他、玉せせりや、愛知県等の真冬の裸祭りで使われる場合が多い。
褌と兼用せず、越中褌、締め込み、ステテコと併用する場合も多い。
九尺褌
長崎県雲仙市(旧・国見町 (長崎県))の伝統芸能「鳥刺し踊り」に使われる褌。
股間を通した布を胸まで引き上げて締める独特の形をしている。
本来は漁師が着用したふんどしで、廻しと同様に着用。
サイジ
石川県舳倉島の海人が身につけていた褌。
非常に布面積の小さい越中褌の一種で現在のTバックに近い形状。
前垂れ、前袋にあたる部分は3角形の刺し子で、残りはロープ状。
横褌を巻きつけたあと、前垂れの部分を外から横褌に巻きつける。
下がり
歌舞伎や時代劇の衣装(股道具)として作られた、最初から見せることを目的に作られた特殊なふんどし。
歌舞伎ではマタギ、素人歌舞伎ではキン隠しと呼ばれる。
越中に似ているが、前垂れと股間の布(晒し)が別々になっている。
前垂れは武士役は白の方形の羽二重や縮緬、「粋な江戸の色男」役では赤の方形の羽二重や縮緬、町人役は白の三角形の晒しとなる。
荒事や繻子奴、等、勇猛な男性の役では伊達下がりと呼ばれる廻し化粧廻しに似た豪華で重厚な下がりになる。
一部の祭り・郷土芸能でも着用。
肉襦袢、または下着の褌の上に着用。
また着用する役者、俳優によって二重に仕立てた下がりの下の部分の左右に鉛のおもりを入れて(五円玉が適当な重さ)、きれいに垂れ下がるように見せている。
その形も少し「丸み」ができるように「分銅状」の形にしたりsしている。
このように、股を割ったとき、いかに下がりがきれいに見えるかという様々な工夫が見られる。
時代劇のふんどしも参照。
半タコ
半タコは褌ではないが、ここで取り上げておく。
日本版トランクス。
猿股、ステテコ、木股とも。
明治以降に一般化した。
時代劇や素人歌舞伎で使われる場合が多いが、時代考証上は誤りとされる。
裸祭り(褌を着用しない場合)で多用される。
祭りによっては、御輿の担ぎ手に褌を禁止し、半タコ着用を指示する場合もある。
通過儀礼
日本の一部の地方では、通過儀礼として、一定年齢に達すると、成人を迎えた証として初めて褌を締める「褌祝」と言われる私的祭事がある。
褌は陰部を覆うことから性的機能を持ったものの象徴として扱われる。
歌舞伎の演技の中で、着物の裾をはしょり、見得を切る場面などは、陰部や臀部を見せて褌を締めていることを表すことで、自分は成人した者であるとの証を象徴したものである。
昔から、褌は成人の下着として位置付けられており、一定年齢に満たない幼児や子供が下着として褌を使用することはなかった。
幼児や子供は金太郎のような腹掛けが一般的だった。
但し、福岡県では7歳で男児は「へこかき」、女児は「ゆもじかき」(湯文字)、と言う成人仕様の下着を初めて身につける地区がある。
時代が洋装化に向かったことで、子供はパッチ(ステテコ)を使用するようになったが、第二次世界大戦前までは、成人してからは褌に代えるのが一般的だった。
近代に入り、明治政府が徴兵令を制定し、国民皆兵が義務付けられ、徴兵検査を受けることが成人男子の証として社会的に認知されるようになった。
この徴兵検査の際に白い越中褌の着用が指導されることで、擬似的な「褌祝」に相当するようになった。
軍隊に入隊すると、白い越中褌が支給され、使用を強制された。
こうして、当時の日本人成人男子は通過儀礼として誰もが「褌」を締めなければならない環境下に置かれた。
愛好家
一般に昔の下着と考えられがちだが、現在でも愛好家は存在する。
褌は、パンツのようにゴムを使わず、風呂敷のように、単純な一枚の布で機能が完結する。
その「潔さ」が、日本人が古来から持つ「美意識」と共通するものがある。
また、日本の古典的な理想の男子像にも例えられる。
褌を着用することで、虚飾を排し、時流に流されることなく本質を求道する理想の日本人男子像を具現化するものとして、褌にこだわりを抱く愛好家は少なくない。
これまでの愛好家は父親や祖父が愛用していたことで、近親者に勧められて本人も愛用するようになる受動的な例が多かった。
新たな愛好家は、従前の例ではなく、周囲に愛用する者がいない中で、能動的に初めて褌を着用する例となっていることである。
従来からの愛好家の高齢化が進み、高齢世代の愛好家人口は減少している一方で、新たな愛好家となるブリーフやトランクスしか知らない世代が出現している。
諸外国にもない、日本独自の存在が新鮮な感覚を呼んでいる。
新たな下着として褌の持つ機能や効能が着目されている。
個性化の時代を迎えて、個人の主張が容認される成熟した社会となっている。
新しい世代は褌を「過去の下着」としての旧来の偏見を持たなくなっている。
これらのことが、新たな世代の愛好家を呼ぶ下地となっている。
日本人の洋装化が進んでも、日本の高温多湿な気候の中で褌の持つ下着としての優れた機能や効能からくる満足度はブリーフやトランクスよりも高い。
そのことや、独特の着装感から、新世代の愛好家が生まれるものと推測される。
これまでは、戦前のように自家で縫製して使用するような環境でなくなり、また、一般の店頭にも並ぶこともなく入手性に難があった。
しかし、インターネットの出現とそれに伴うインターネット通販の発達で、褌の製造販売を行う専門の業者等が生まれた。
こうして、褌は容易に入手できるようになった。
ネットワーク社会の到来と共に、褌に関する情報がネット等を通じて提供されるようになった。。
こうして、現在でも数多くの愛好家が存在することが確認されるようになったことで、孤立がちな新たな世代の愛好家には、価値観を共有することで連帯感に似た心情を持つようになった。
こうして、こだわりの愛好家を生む環境となっているようだ。
六尺褌愛好者、越中褌愛好者も参照。
水着としての褌
戦前までは日本人男性の水着は、褌が一般的であり、ほとんどが六尺褌であった。
六尺褌水着としての六尺褌も参照。
時代劇の褌
かつて無声映画といわれた頃の時代劇映画では、ふんどしを露に見せての剣戟が盛んだった。
当時の人気スター、市川百之助による意識的にふんどしを見せるサービスに女性ファンは大喜びし、「フンドシももちゃん」と呼ばれた。
同様の立ち回りは、若い頃の市川右太衛門や、片岡千恵蔵、阪東妻三郎、羅門光三郎なども行った。
特に市川右太衛門の「浄魂」の大剣戟シーンのふんどしを露にしての剣戟や、阪妻の「決闘高田馬場」の尻はしょりのふんどし、最近ではテレビ映画「森の石松」で中村勘三郎 (18代目)がふんどしを見せての剣戟が知られる。
女性の褌
一般に女性と褌は縁がないと思われがちだが、決してそうではない。
古くは『日本書紀』にも女性が褌を着用した記述を確認することができる。
一部では腰巻も含めた下穿きの総称として「褌」という言葉が使われていた。
タンポンやナプキンなどの生理用品が普及する以前は、越中褌やもっこ褌が「お馬」と呼ばれ生理帯として長い間使用されてきたという歴史がある。
だが、生理中の女性を穢れたものとして忌み嫌う風習があったことから、あまりおおっぴらに語られることがなかった。
江戸時代から戦後にかけては見世物としての女相撲興行が盛んに行われていたし、大衆演劇の世界では男装した女役者が着物をはしょり、ふんどしを見せながらの剣戟を演じて客の喝采を浴びたという。
またサイジのように一部の海女が身につける褌も存在する。
下着といえば褌か腰巻しかなかった時代には、女性も必要に応じてふんどしを締めることに抵抗がなかったと思われる。
昨今の褌ブームの影響か、男性はもとより広く女性をも対象にした商品が市場に現れている。
中には「パンドルショーツ」という名称で発売されている物も在る。
「パンドル」とはフランス語で、「垂れる」と言う意味。
女優の益戸育江がTV番組の取材で手作りの越中褌を愛用していると発言して話題を呼んだ。
セクシャル
褌は下着の一種である。
特に六尺褌は局部だけを覆うだけなので、余計に股間部が強調され、臀部も露出していることから、一部のゲイに人気がある。
ゲイ向けのグラビアやアダルトビデオ、また、ゲイ向けの褌サイトには逞しい、あるいは、肥満した男性が褌を締めた姿も一部見受けられる。
またゲイバーには褌バーというカテゴリも存在する。
ゲイには裸祭りの愛好者も多く、積極的に全国の裸祭りに参加しているらしい。
やおいの女性の中には褌少年を題材にインターネットで活動する者もいる。
褌を締めた男性キャラクターの画像などを掲載し、一部では褌キャラ・ふんどしキャラと表現している。
また同性愛者に限らず、女性の褌姿を愛好する男性や褌を愛好する女性も一部に存在する。
団鬼六や沼正三を輩出した伝説的雑誌『奇譚クラブ』においては「女斗美」(「女闘美」とも表記)と呼ばれ女相撲を熱狂的に愛好する作者による小説が定期的に発表されていた。
エログロ描写で当時大ヒットした石井輝男監督の「徳川女系図」(1968)などのピンク映画には女相撲シーンがあった。
また、谷ナオミ主演のにっかつロマンポルノ作品にもしばしば褌は登場している。
また近年では宮沢りえが1989年に発表したカレンダーのふんどし姿が話題を呼び、女性の褌姿を収録した写真集、アダルトビデオなども数多く出されるようになった。
21世紀に入ってからは博多祇園山笠や、その他の裸祭り、奉納相撲に参加する褌・廻し・締め込み姿の少年少女画像がネット上で広まった。
本来、粋、勇猛、精悍、ダンディズム、というイメージを持つ褌を、これらとは対照的な可憐な少年少女(特に少女)が締めると、却って可憐な魅力が強調される。
ここのところに一部のマニア(主に可憐系を愛する者)が注目、褌姿の少年少女をテーマにした同人誌、フィギュア、ホームページ、ブログ、画像掲示板等が相次いで登場した。
古典落語
古典落語では、褌を締めていた時代なので褌に関連した話題には事欠かない。
『錦の袈裟』『蛙茶番』などが挙げられる。
川柳
江戸庶民の暮らしを生き生きと描写した川柳にも褌はよく登場する。
代表的なものをいくつか例に挙げると、
庶民の日常生活を詠んだもの
「越中がはづれて隣りの国を出し」
「ふんどしをひねくり廻し一分出し」
褌に絡めて関取の暮らしを詠んだもの
「褌の強いはやがて幕になり」
「褌を故郷へ飾る角力取」
褌が生理帯としても使用されていたことをしのばせるもの
「越中を女房がすると事を欠き」
「十三四 姫はお馬をのりならひ」
などがある。
文学
夏目漱石は、『虞美人草』の中で夏の風物詩として褌を取り上げている。
「夏は褌を洗う」など、夏の季語のような用法を使用している。
堺利彦の『獄中生活 (文学)』では、堺が巣鴨監獄(のちの巣鴨プリズン、巣鴨拘置所)に入獄したおりの官給の褌の感想がある。
「いずれも柿色染であるが、手拭と褌とは縦に濃淡の染分けになって、多少の美をなしているからおかしい。」(三 巣鴨監獄)
泉鏡花『いろ扱ひ』は、作者の少年時の乱読癖を振り返った私小説。
厳しい塾の下宿から、貸本屋へ外出する方便として、「褌を外して袂へ忍ばせて置く」裏技を開陳している。
「何のためだと云ふと、其塾の傍に一筋の小川が流れて居る、其小川へ洗濯に出ましたと斯(か)う答へるんです。
さうすると剣突を喰つて、『どうも褌を洗ひに行きますと云ふのは、何だか申上げ悪(にく)いから黙つて出ました。』と言ひ抜ける積りさ。」
芥川龍之介『玄鶴山房』では、肺結核の床に就いている主人公・玄鶴が、褌で縊れ死ぬことを夢想する。
「玄鶴はそっと褌を引き寄せ、彼の頭に巻きつけると、両手にぐっと引っぱるようにした。
/そこへ丁度顔を出したのはまるまると着膨(きぶく)れた武夫だった。
/やあ、お爺さんがあんなことをしていらあ。」
/武夫はこう囃(はや)しながら、一散に茶の間へ走って行った。」(五)
「死ぬときはきれいな身なりで」という美意識は、近代社会において、人口に膾炙していた。
芥川龍之介『追憶』にはこうある。
「この「お師匠さん」は長命だった。」
「なんでも晩年味噌(みそ)を買いに行き、雪上がりの往来で転んだ。」
「そして、やっと家(うち)へ帰ってくると、「それでもまあ褌(ふんどし)だけ新しくってよかった」と言ったそうである。」(一九 宇治紫山)
小林多喜二『蟹工船』では、密閉空間に置かれた船員達の、荒れた風景の小道具として描かれる。
「夢精をするのが何人もいた。
誰もいない時、たまらなくなって自涜をするものもいた。
――棚の隅にカタのついた汚れた猿又や褌が、しめっぽく、すえた臭いをして円められていた。
学生はそれを野糞のように踏みつけることがあった。」(四)
小林多喜二『独房』では、政治犯としての入所体験において、外界との違いを褌に見つける。
「青い着物を着、青い股引(ももひき)をはき、青い褌(ふんどし)をしめ、青い帯をしめ、ワラ草履(ぞうり)をはき、――生れて始めて、俺は「編笠(あみがさ)」をかぶった。
だが、俺は褌まで青くなくたっていゝだろうと思った。」
高村光太郎『回想録』には、近世の風俗の名残が、近代の流れに洗われてゆく風情を描く。
「祖父は丁髷(ちょんまげ)をつけて、夏など褌(ふんどし)一つで歩いていたのを覚えている。
その頃裸体禁止令が出て、お巡りさんが「御隠居さん、もう裸では歩けなくなったのだよ。」と言って喧(やかま)しい。
そしたら着物を着てやろうというので蚊帳(かや)で着物を拵え素透(すどお)しでよく見えるのに平気で交番の前を歩いていた。」
坂口安吾『青鬼の褌を洗う女』では、性別役割分業として「褌を洗う女私」を登場させている。
三島由紀夫の褌姿は有名だ。
市谷駐屯地での割腹事件の数年前から褌姿で切腹する写真や映画『憂国』を残している。
三島由紀夫と交流のあった稲垣足穂は、ふんどしをはいた奇行で有名。
彼には、三島同様に男色趣味があった。
そのため、足穂はふんどしでインタビューに応じたり、若い男をくどいたりしている。
漫画・アニメ
現代を舞台にした作品の場合、古風だが強い意志を持った男子というキャラクターを強調するアイテムとして使用されることが多い。
また、ギャグとしての意味合いも強い。
例外的に香坂しぐれ、きくりのような女性キャラも存在するが、この場合も武道の達人、くノ一や男装趣味といった特殊な設定のキャラクターであることが多い。
また、博多を舞台にした青春劇画『博多っ子純情』(長谷川法世)では、博多祇園山笠が重要なイベントとして描かれている。
『六尺ふんどし』(青柳裕介)、『匠のふんどし』(山崎大紀)、『ふんどし刑事ケンちゃんとチャコちゃん』(徳弘正也)、『赤褌鈴乃介』(永井豪、『赤胴鈴之助』のパロディ)といったタイトルに使用している作品もある。
褌はパンツと違いその種類や締め方が多岐にわたるため、絵的な表現が難しい。
そのため漫画やアニメに登場する褌は、作者の知識不足もあって六尺、越中といった描き分けが明確でないことが非常に多い。
褌に関する言葉・都市伝説など
褌を含むことわざとして以下のものなどがある。
「褌を締めてかかる」
「義理と褌欠かされぬ」
「人の褌で相撲を取る」
「帯に短し襷に長し褌には丁度良い」
成人を意味する褌親(へこおや)がある。
カニの腹節は俗に褌と呼ばれている。
北陸地方ではカニのえら(食用に不適)を指し、茹でるカニの甲羅を開けたのちに先ず取り除く。
食卓にカニを出された男性がカニではなく自分の褌を外す、という民話がある。
褌を含む四字熟語は「緊褌一番」がある。
飛脚のふんどしという都市伝説もある。
雅楽にも褌が付く曲がある。
何れも相撲の時の曲らしい。
輪鼓褌脱(太食調)
剣気褌脱(盤渉調)
昔から妊婦に関して「夫のふんどし(六尺)(地方によっては裸祭り参加者のふんどし)を腹巻にすると安産できる」と言う言い伝えがある。
徳川家康は倹約家で自身は浅黄に染めたふんどしを常に使用し、家臣にもそれを勧めていた。
しかし、いかに骨太の三河武士でも下帯だけは真白のものを使用したとされる。