サクラ (Sakura (Cherry blossoms))
サクラ(桜、櫻)は、バラ科サクラ属の植物のうち、ウメ、モモ、アンズなどを除いた総称であり、一般にはサクラ亜属 (Subgen. Cerasus) に属するものを指す。
日本で最も知られている花の一つである。
概説
春に白色や淡紅色から濃紅色の花を咲かせ、日本人に古くから親しまれている。
自然種としてはヤマザクラ、オオシマザクラ、エドヒガンなど10種ほどが認められている。
園芸品種が多く、花弁の数や色、花のつけかたなどを改良しようと多くの園芸品種が作られた。
これらのうちヤマザクラの園芸品種を総称してサトザクラ、八重咲きの品種を総称してヤエザクラ等ともいう。
とくに江戸時代末期に開発されたソメイヨシノ(染井吉野)は、明治以降、全国各地に広まり、サクラの代名詞となった。
日本では固有種・交配種を含め600種以上の品種が自生している。
古代では、山に咲くヤマザクラ(山桜 P. jamasakura)や、八重咲きの桜が一般的であった。
有名な吉野山の桜も、ヤマザクラである。
静岡県富士宮市に日本最古級のヤマザクラである狩宿の下馬ザクラがあり、特別天然記念物に指定されている。
その他、寿命が長く著名な桜に日本五大桜などがある。
また、果実を食用とするほか、花や葉の塩漬けも食品などに利用される。
日本において最も馴染み深い花であることから、一般的に国花の一つとされ(法的に定められたものではない)、明治時代以降軍隊や学校の制帽や階級章に桜を象った紋章が用いられている。
現在においても警察や自衛隊などの紋章に使用されている。
ファイル100JPY.JPGの表には桜がデザインされている
3月27日はさくらの日である(1992年(平成4年)から財団法人日本さくらの会が制定した)。
語源
「サクラ」の名称の由来は、一説に「咲く」に複数を意味する「ら」を加えたものとされ、元来は花の密生する植物全体を指したと言われている。
また他説として、春に里にやってくるイネ(サ)の神が憑依する座(クラ)だからサクラであるとも考えられている。
富士の頂から、花の種をまいて花を咲かせたとされる、「コノハナノサクヤビメ(木花之開耶姫)」の「さくや」をとって「桜」になった、とも言われている。
特徴
開花期は種によってばらつきがあるが早いもので3月中旬頃から、遅いもので5月中旬頃までである。
ヤマザクラは3月下旬、ソメイヨシノは4月上旬、ヤエザクラは4月中旬、カスミザクラは5月上旬くらいまで花を咲かす。
特にソメイヨシノで顕著であるが、葉が出そろう前に花が咲きそろう。
開花期間は特に花見に使われる「ソメイヨシノ」が短く、満開から一週間程度で花が散る。
その他、温度や雨が散る散らないの原因になる。
花が咲いた後に気温が下がる花冷えが起こると、花は長く持ち、咲いた後に雨が降ると早く散ってしまう。
小学校などの校庭には、学生の入学時に桜の花が咲いているようにするため、ソメイヨシノに比べて開花期間が長い八重桜を混植することが多い。
花が散って葉が混ざった状態から初夏過ぎまでを葉桜と呼ぶ。
サクラ属の葉の形は多くの物で楕円形であり、葉の端はぎざぎざになっていることが多い。
また、葉に薄い細毛が生えるものも少なくない。
葉は秋になると紅葉する。
サクラは木を傷つけるとそこから腐りやすい性質を持つ。
この特性から「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という諺まである。
このため、花見の宴会でサクラの木を折る観光客の被害によってサクラが弱ってしまうことが多い。
一方、枝が混んできた場合は適切な剪定を行うと樹勢を回復する場合もある。
青森県の弘前市ではリンゴの剪定技術をサクラに応用することで同地に生えていたソメイヨシノの樹勢を回復することに成功している。
剪定の際は不要な枝を根元から切り取り、その傷口を消毒し保護剤で保護する。
サクラは根から新たな茎が生える種類も多い。
エドヒガンやヤマザクラ、オオシマザクラなどは比較的に変性を起こしやすい種であり、このため、園芸技術の発達に伴ってこれらを用いた品種改良が多く行われた。
代表的なものはソメイヨシノであり、この種はオオシマザクラとエドヒガン群の特徴を持っている。
また、ヤマザクラなどは一枝だけに限って突然変異することもあり、その枝を挿し木や接木にすることによって新たな品種とすることもある。
現在、固有種・交配種を含め600種以上の品種が自生している。
日本では日本三大桜がいずれも樹齢千年を超える老古木となっている。
健康状態の良い木は年齢を重ねても華麗に花を咲かす。
日本におけるサクラ
日本で桜は最も一般的な花であり、最も愛されている花である。
サクラの花は往々にして葉が出そろう前に花が咲きそろう。
この「何もないところに花が咲く」という状態に、古来生命力の強さを感じたものと思われる。
春の象徴
桜は、春を象徴する花として、日本人にはなじみが深く、初春に一斉に開花する特徴があり、春を告げる役割を果たす。
俳句の季語になっているほか、桜の開花予報、開花速報は春を告げる合図となっている。
また、入学式を演出する春の花として、多くの学校に植えられている。
桜が咲いている季節がまさに春である。
日本全土で全ての種類の桜が全て散り終わると晩春の季節となり、初夏がやってくる。
花の代名詞
日本最古の史書である『古事記』『日本書紀』にも桜に関する記述があり、日本最古の歌集である『万葉集』にも桜を詠んだ歌がある。
平安時代までは和歌などで単に「花」といえば「梅」をさしていたが平安時代から「桜」の人気が高まり「花」といえば桜をさすようになった。
難波津の咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花(王仁)
の「はな」は梅であるが、
ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花ぞ散るらむ(紀友則)
の「はな」は桜である。
風流事を称して「花鳥風月」というが、平安時代以後の日本において、単に「花」といえばサクラのことを指すようになった。
その後の和歌にも桜を詠んだものは多い。
平安時代の歌人・西行法師が、月と花(サクラ)を愛したことは有名である。
西行法師が詠んだ歌の中でも、次の歌は有名である。
願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ
西行法師は、この歌に詠んだとおりの状況の下、入寂したという伝説がある。
また「花は桜木。人は武士」という言葉が江戸時代までに成立しており、それまでに「花」=「桜」のイメージは日本で定着した。
和歌・俳句
上記のように春の象徴・花の代名詞として和歌によく歌われるほか、俳句の世界でも、古くから春の季語として桜が用いられてきた。
江戸時代の代表的俳人・松尾芭蕉は、1688年(貞享5年)春、かつて奉公した頃のことなどを思って次の句を詠んだ。
さまざまの 事おもひ出す 桜哉
日本人の精神の象徴
江戸時代の国学者、本居宣長は「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」と詠み、桜が「もののあはれ」などと基調とする日本人の精神具体的な例えとみなした。
また明治時代に新渡戸稲造が著した『武士道』では「武士道(シヴァリー)とは日本の象徴たる桜の花のようなもの」と冒頭に記している。
サクラの開花予想
例年、気象庁は、「さくらの開花予想日」と、開花予想日を線で結んだ図を発表して春の到来を知らせる(この図は一般に「桜前線」と呼ばれる)。
さくらの開花予想日は、南西諸島や北海道の大部分を除いてソメイヨシノの開花日である。
各地で、特定の桜を標準木として定めている。
この標準木を用いて、冬期の気温経過や春期の気温予想等を考慮した各種計算を経て、開花予想日が決定されている。
標準木のつぼみが、5 - 6輪ほころびると開花したことが発表される(これをマスコミでは「開花宣言」と呼んでいる)。
東京都のさくらの標準木は、靖国神社境内にある特定の桜である。
予想の慎重を期すため、その桜がどれであるかは、公開されていない。
近年では、さくらの開花については特にマスコミの注目を集める傾向にあり、開花の時期になると、職員の観察を複数のマスコミが取材に訪れる様子がしばしば見られる。
樹木全体から見た開花具合によって咲き始め、三分咲き、五部咲き、七部咲き、満開、散り始めなどと刻一刻と報道されることもある。
木々の様子を逐一報道することは世界から見ても珍しい例である。
花・景観
他の花の咲く植物全般に対して、桜のみを特に区別して「観桜」と呼ぶ事がある。
それくらいに桜はその景観から人気が高く多くの場所に植えられている。
植栽の場合街路樹、公園、庭木、河川敷等に使われることが多い。
並木のように道に沿って、あるいは河川に沿って植えられることが多く、あたり一面が花景色になることも多い。
また、学校の校庭には桜が植えられていることが多い。
また、古くから桜の花を育てている神社や寺も少なくない。
しかし、害虫や病気など手入れが大変で、大きく育つためか庭木にされることは少ない。
春に日本では、桜の咲く木の下に人々が集まって、宴が開かれる。
花見や宴会の場所として広く知れ渡っているところを桜の名所という。
花見の習慣とともに、桜の名所も日本全国各地にある。
また、神社や寺など桜を持っている団体が桜祭りを開いている例も少なくない。
食用
観賞用の桜にも赤い実をつけるものがあるが、これは一般には食用とはされない。
俗に「サクランボ」と呼ばれ、果実を食用とするものは、西洋系の品種であるセイヨウミザクラ(西洋実桜)で、これはしばしば「桜桃」(おうとう)とも呼ばれるが、本来は、「桜桃」とはセイヨウミザクラとは別種のシナミザクラ(中国実桜、支那実桜)を指す。
花(花弁)自体も塩漬けにすると独特のよい香りを放ち、ハーブの一種として和菓子・あんパンなどの香り付けに使われる。
花の塩漬けは、お茶または湯に入れて茶碗の中で花びらが開くことから、祝い事に使われる。
婚礼や見合いなどの席では「お茶を濁す」ことを嫌い、お茶を用いずに桜湯を用いることが多い。
桜餅は、塩漬けの葉桜さくら葉で包まれている。
それ以外の使用
花の形をかたどったものも多く、小中学校や商業高校などの校章をはじめ、警察、自衛隊などの紋章に多く用いられている。
木自体は材木として使われることがある。
材木は小物入れや茶筒などの細工物(樺細工)や版木に利用される。
また、燻製のスモークチップとしてよく用いられる。
桜の樹皮は水平方向にはがれ、その表面は灰色を帯びてつやがあって美しいため、木工製品の表面に利用される。
その他では生薬や染料として用いられている樹皮は桜皮(おうひ)という生薬になり、鎮咳、去痰作用がある。
染料としては開花時期の樹皮を染色に使用する事ができる。
薄いピンク色である。
日本の桜
なお、群はおおよそ亜節に当たる。
ヤマザクラ群
ヤマザクラに類する品種の桜の総称。
日本列島および朝鮮半島に分布する。
葉が花と同時に開く。
エドヒガン群
エドヒガンに類する品種の桜の総称。
日本と日本から持ち込まれ朝鮮半島にかけて分布するエドヒガン、台湾に分布するムシャザクラ、中国に分布するP.changyangensis Ingramの三系統があり、いずれも萼(がく)の下部に球状のふくらみがある。
枝垂桜は、形の面白さから多数の園芸品種が存在する。
エドヒガン(江戸彼岸・立彼岸・東彼岸・婆彼岸) - 春の彼岸ごろに花を咲かせる。
桜の中では最も長寿な品種の一つで、「石割桜」や「神代桜」など、国の天然記念物に指定されているものも少なくない
マメザクラ群
マメザクラに類する品種の桜の総称。
マメザクラに類する系列とタカネザクラに類する系列に大きく分けられる。
低木もしくは小高木で、実は黒く結実する。
欠刻状重鋸葉が特徴。
チョウジザクラ群
チョウジザクラに類する品種の桜の総称。
低木もしくは高低木で、多雪地帯でよく見られる。
押し葉を作ると芽の部分が黄変するという特徴がある。
ヒカンザクラ群
ヒカンザクラに類する品種の桜の総称。
中国の冬桜花、チベットのヒマラヤザクラなどが野生種にあたり、1月から3月にかけて緋色の花を咲かせる。
ミヤマザクラ群
ミヤマザクラに類する品種の桜の総称。
中国南西部を中心に5種と、日本に1種分布しており、日本産のものは中国産のものとは別種と考えられている。
低木、小高木または高木で、若木は有毛の物が多い。
シナミザクラ群
シナミザクラに類する品種の桜の総称。
中国南西部に7種が分布している。
コブクザクラ(子福桜)
シナミザクラ(支那実桜) - 中国での呼び名は「桜桃」。
実の色は赤や黄色、実の形は球形や卵形など多岐に渡り、様々な品種が存在すると思われるが、まとめてシナミザクラとして扱われている。
実を食べるほか、枝・葉・樹皮などを漢方薬として用いる。
タイザンフクン(泰山府君)
トウカイザクラ(東海桜) - 切り花用に福島市花見山公園近隣の花卉農家で盛んに栽培されている。
開花時期がソメイヨシノより1週間から10日ほど早く、満開時に咲き誇る姿は非常に美しい。
ホウキザクラ(箒桜)
サトザクラ類
オオシマザクラ、ヤマザクラ等を元に作り出したと見られる一連の品種を総称してサトザクラと呼び、それに類する桜の品種を総称してサトザクラ群と呼ぶ。
また、人が作り出した園芸品種を総称してサトザクラ類にする場合もある。
サトザクラ群は違った群の桜などを掛け合わせて作られたものであり、どの群でもないと考えられている。
その他
サクラ属に含まれるイヌザクラ・ウワミズザクラなどもサクラの名を持つが、花は小さく、穂状に着くので見かけは大きく異なる。