日本の郷土料理 (Japanese local dishes)

郷土料理(きょうどりょうり)とは、食文化としてある地域・地方で長らく食べられてきた家庭料理のこと。
地方料理(ちほうりょうり)とも言われる。
全国に広まって一般化してしまうと、郷土料理とはあまり言われなくなる。

食品加工会社、飲食店、町おこしで開発された料理などに由来し、ある地域・地方の家庭料理に浸透した場合には、郷土料理と呼ばれる他に「ご当地グルメ」とも呼ばれる。

発祥時期による分類

郷土料理の発祥時期を分類すると、大きく4つに分かれる。

江戸時代以前
冷蔵庫の無い時代であり、漬物や干物、燻製など、長期保存に適した調理方法による郷土料理が多い(例、山梨県の鮑の煮貝)。
また、カステラのように、ヨーロッパから伝わった製法が独自に発展した例や、卓袱料理の様に中国から伝わった例もある。

明治から昭和初期
明治維新と共に、海外から新しい食材や調理法が入ってくる。
これらの影響を受けて考案、改良された郷土料理が多い。

太平洋戦争直後
戦後の食料難を機に、今まで着目されなかった素材や代用品を取り上げて考案された料理が多い(例、ローメン、仙台牛タン、焼きうどん)。

地域おこしブーム期
高度成長期以降、日本の社会が工業化するにつれ、農業や漁業を基盤とする地域は、過疎化などに苦しむようになった。
これに対して、地域を活性化しようとする見地から「地域おこしの目玉」として考案された「郷土料理」が多く見られるようになる。

消滅の危機と郷土料理の見直し
観光振興や地域活性化、各種イベントやマスコミの紹介などで、目に付きやすい郷土料理ではなく、地域の人たちが普段から口にしている食事を常食(じょうしょく)と称して、調査・研究している料理人や民俗学者、郷土研究家たちがいる。
彼らは、地域独自の食文化が消えつつあると警告している。
その根本原因として、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなど小売業の発展や情報化の発展がある。
これらにより、日本国内の食生活・食文化が均一化・均質化し、家庭内での調理機会も減少(例えば、魚を使った料理)した、と指摘されている。
その一方で、地方のコンビニエンスストアやスーパーマーケットの食品売り場には、少なからずその地域特有の食品が並んでいるのも事実である。
そうした場合、しばしば地元の住人はその食品が自らの地域特有の「郷土料理」であることを認識しておらず、全国区的な食品と思い込んでいることも珍しくない。

郷土料理には、地方の特産品を用いていたり、地方独特の地理的・歴史的条件により生まれたものなど様々なものがある。
気候風土に適した食材、調味料や調理法、時代の流れ等により、変化しあるいは淘汰された料理もある。
概要で述べた旧藩による地域ごとの生活習慣によって各地で独特の食文化が発展してきた。

ある意味で、全ての料理は初めて成立した時点では、郷土料理であるともいえる。
その中で、江戸前寿司、お好み焼き、辛子明太子のように他の地域にも広く伝播することで、実質的に郷土料理として認識されなくなるものもある。
しかし、全国に広がっている料理で、同じまたは似た呼び方であっても、食材、製法、味付けが地方毎に異なる場合もあり、「食の方言」と呼ばれることがある。
例えば、雑煮、赤飯、おでんなどは地方によって味噌・醤油・塩・砂糖など味付けが異なり、かつ白味噌・赤味噌などの細かな分類がある為地域差が大きい。

地域・食材による分類

例えば、柚餅子は日本各地で郷土料理として点在している。
食材・料理を通じた文化交流の広がり方を知る手がかりにもなっている。

昆虫食
また、いなごの佃煮やスズメバチの幼虫食などの昆虫食は、山形県、福島県、群馬県、長野県、大分県から熊本県を経て宮崎県・鹿児島県にかけての九州山地脊梁部などの山岳地方の郷土料理となっていることが多い。
これは、海沿いと異なり魚からのタンパク質摂取が難しいことから、昆虫を食用とした古い文化が残存したという考え方がある。
昆虫は栄養価は高いものの、個々の個体が小さく、採集労力当たり得られる栄養価は相対的に低くなってしまう。
ゆえに、そこまで大量採集の労力をかけることが見合う地域において、また少ない労力で大量に採集できる食材昆虫の種類のものを選んで取っていると考えられる。
具体的には、多くは前述のような山岳地帯で、一度の採集で大量の幼虫が確保できるスズメバチ類、水田で労せずして大量に採集できるイナゴ、かつては魚のあらなどをため池に浸しておくだけで大量に集めることができたゲンゴロウ、絹糸生産の副産物として大量に得られるカイコの蛹や成虫などが食材として選択されている。

魚貝類
この他、ウツボ料理、カツオ料理、サンマ料理、マンボウ料理など、県を越えて海岸地域に浸透した郷土料理も数多い。
これらは、黒潮などの海流や海上交通網を通じた漁村間のネットワークによって食文化の伝播、浸透が生じたと考えられる。
和歌山県の那智勝浦と、千葉県の勝浦において、地名のみならず食文化においても多くの共通性がみられるのはその一例である。
有明海などにしか大規模に残っていない干潟に生息する魚介類の料理は、過去に岡山県の児島湾などの他の地域でもみられたのにすでに消滅してしまった例もある。

地域おこしの手段としての郷土料理

先述のとおり、地域おこし・地域活性化の手段・ツールとして郷土料理を活用する動きが日本各地でみられる。
「食」を生かしたまちづくりとして、全国各地で郷土料理が見直される動きがある。
中には、大幅にアレンジし、斬新なデザインのパッケージ等見た目の改良が施されたものもある。

農山漁村においては過疎化・高齢化が進み、地域の人々が培ってきた伝統的な文化が失われつつあり、その継承が危ぶまれている。
そんななか、農林水産省でも、食文化の一つである郷土料理を見直し、地域の食材を生かした郷土料理の掘り起こしとともに、全国発信を図るため「郷土料理百選」を2007年度から選定することにしている。
郷土料理を、都市と農村との交流、地域活性化につなげようという試みで農山漁村の郷土料理百選として発表した。

町おこしの為の「ご当地グルメ」との混同

活性化への活用が進む一方、その行き過ぎた商業主義への批判もみられる。
例えば、一部には、本来その地域とのゆかりが薄い料理であるにも拘らず、地元商工会議所・商工会や行政がマスコミ等とのタイアップで、強引に「郷土料理」「名物料理」に仕立てたケースもある。

また、実際には地域住民には食べられておらず、観光客に供されるだけの「郷土料理」が多いという批判がある。
土地の名物と称し、土産物として売られる菓子や漬け物には、実際には他の地域や外国で生産、加工されているものや、ラベルだけを地方のものに換えたものも少なくない。

[English Translation]