温泉 (Hot Spring (Onsen))

温泉(おんせん)とは地中から湯が湧き出す現象や湯となっている状態、またはその場所を示す用語である。
その湯を用いた入浴施設も一般に温泉と呼ばれる。

熱源で分類すると、火山の地下のマグマを熱源とする火山性温泉と、火山とは無関係の非火山性温泉に分けられる。

含まれる成分により、さまざまな色、匂い、効能の温泉がある。

広義の温泉(法的に定義される温泉):日本の温泉法の定義では、必ずしも水の温度が高くなくても、普通の水とは異なる天然の特殊な水(鉱水)や火山ガスが湧出する場合に温泉とされる(温泉の定義参照)。
温泉が本物か否かといわれるのは、温泉法の定義にあてはまる「法的な温泉」であるのかどうかを議論する場合が一般的である(イメージに合う合わないの議論でも用いられる場合がある)。

温泉の成り立ち

地熱で温められた地下水が自然に湧出するものと、ボーリングによって人工的に湧出あるいは揚湯されるもの(たとえ造成温泉でも)どちらも、温泉法に合致すれば温泉である。
温泉を熱源で分類すると、火山の地下のマグマを熱源とする火山性温泉と、火山とは無関係の非火山性温泉に分けられる。
非火山性温泉はさらに、地下深くほど温度が高くなる地温勾配に従って高温となったいわゆる深層熱水と、熱源不明のものに分けられる。
また特殊な例として、古代に堆積した植物が亜炭に変化する際の熱によって温泉となったモール泉が北海道の十勝川温泉などに存在する。
火山性温泉は当然ながら火山の近くにあり、火山ガス起源の成分を含んでいる。
深層熱水は平野や盆地の地下深部にあってボーリングによって取り出されることが多く、海水起源の塩分や有機物を含むことがある。
非火山性温泉の中には通常の地温勾配では説明できない高温のものがある(有馬温泉・湯の峰温泉・松之山温泉など)。
その熱や成分の起源についていくつかの説が提案されているが、いずれも仮説の段階である。

日本の温泉

日本は火山が多いために火山性の温泉が多く、温泉地にまつわる伝説、神話の類も非常に多い。
また、発見の古い温泉ではその利用の歴史もかなり古くから文献に残されている。

文献としては日本書紀、続日本紀、万葉集、拾遺和歌集などに禊の神事や天皇の温泉行幸などで使用されたとして玉造温泉、有馬温泉、道後温泉、南紀白浜温泉、秋保温泉などの名が残されている。
平安時代の延喜式神名帳には、温泉の神を祀る温泉神社等の社名が数社記載されている。

江戸時代になると貝原益軒、後藤艮山、宇田川榕庵らにより温泉療法に関する著書や温泉図鑑といった案内図が刊行されるなどして、温泉は一般庶民にも親しまれるようになった。
この時代は一般庶民が入浴する雑湯と幕吏、代官、藩主が入浴する殿様湯、かぎ湯が区別されていた。
これらは、それぞれ「町人湯」「さむらい湯」などと呼ばれていた。
各藩では湯役所を作り、湯奉行、湯別当などを置き、湯税を司った。

一般庶民の風習としては正月の湯、寒湯治、花湯治、秋湯治など季節湯治を主としていた。
比較的決まった温泉地に毎年赴き、疲労回復と健康促進を図った。
また、現代も残る「湯治風俗」が生まれたのも江戸時代であった。
砂湯、打たせ湯、蒸し湯、合せ湯など、いずれもそれぞれの温泉の特性を生かした湯治風俗が生まれた。

そして上総掘りというボーリング技術が19世紀末にかけて爆発的に普及した事で、明治以降には温泉資源を潤沢に利用出来るようになった。
日本の温泉源泉のうちおよそ1/10を占める別府温泉も、この技術によって温泉掘削が盛んとなった。
現在も複数の温泉供給会社が源泉数、湧出量ともに日本一の別府温泉を支えている。

温泉と医療

明治時代になると温泉の科学的研究も次第に盛んになった。
昭和以降は温泉医学及び分析化学の進歩によって温泉のもつ医療効果が実証され、温泉の利用者も広範囲に渡った。
豊富な温泉資源に恵まれた別府温泉では、1912年(明治45年)には陸軍病院が、1925年(大正14年)には海軍病院が開院した。
1931年(昭和6年)には九州大学の温泉治療学研究所が設置され、温泉治療の研究に取り組まれてきた。

日本での都市型温泉の広がり

近年では地域おこしの一環、観光客誘致のための温泉開発が全国的に行われている。
また東京都内のような都市部でも温泉を売りにした温浴施設が開設、人気を集めている。

欧州の温泉

日本の温泉が入浴本位で発展したのに対し、欧州の温泉は飲用を主に、日光浴や空気浴を加えた保養地として発達した。
現在でも、鉱泉水を飲んだり、決められた時間だけ湯につかり、シャワーを浴びながらマッサージを受けたりすることは医療行為として認められている。

欧州の温泉地としては、チェコのカルロヴィ・ヴァリ、イギリスのバース、ベルギーのスパ、ハンガリーのブダペスト、ドイツのバーデン・バーデンなどが有名である。
詳細は後述の項目を参照せよ。

温泉の利用

湯を使う風呂が一般的でなく、衛生に関する知識や医療が不十分であった時代には、温泉は怪我や病気に驚くべき効能があるありがたい聖地であった。
各温泉の起源伝説には、シカやツル目や鷺(サギ)などの動物が傷を癒した伝説や、空海等高名な僧侶が発見した伝説が多い。
このような場所は寺院や神社が所有していたり、近隣共同体の共有財産であった。

江戸時代頃になると、農閑期に湯治客が訪れるようになり、それらの湯治客を泊める宿泊施設が温泉宿となった。
湯治の形態も長期滞在型から一泊二日の短期型へ変化し、現在の入浴形態に近い形が出来上がった。

温泉はヨーロッパでは医療行為の一環として位置付けられているが、日本では観光を兼ねた娯楽である場合が多い。
学校の合宿、修学旅行に取り入れる例も多い。
もちろん、湯治に訪れる客も依然として存在する。

提供形態

一旦浴槽に注いだ湯を再注入するか否かで循環風呂と掛け流しに分類される。
循環式においては、一度利用した湯を濾過・加熱処理をした上で再注入している。
近年掛け流しを好む利用者の嗜好により、源泉100パーセントかけ流し等のキャッチコピーで宣伝しているところもある。

入浴法

さまざまな湯温

時間湯

草津温泉(群馬県、高温浴(摂氏42度以上))

ぬる湯/持続湯

不感温度浴(摂氏34-37度)、微温浴(摂氏37-39度)

冷泉浴

増富温泉(山梨県)、寒の地獄温泉(大分県)
さまざまな入浴形態

打たせ湯

うたせ大浴場(大分県筋湯温泉),ひょうたん温泉(大分県別府温泉鉄輪温泉)

いで湯

日田温泉(大分県)

立ち湯

鉛温泉(岩手県)

寝湯

湯之谷温泉郷

足湯

各所、屋外で無料のものも多い。
道の駅たるみず(鹿児島県)に設置されているものが日本最長。

蒸し湯

石室

鉄輪むし湯(生薬のショウブを敷き詰める:大分県別府温泉鉄輪温泉)

箱むし

御生掛温泉(秋田県)

砂むし

指宿温泉(鹿児島県),竹瓦温泉(大分県別府温泉),別府海浜砂湯(大分県別府温泉亀川温泉上人ヶ浜)

まんじゅうふかし

酸ヶ湯(青森県)

岩盤浴

玉川温泉 (秋田県)(秋田県)

泥湯

温泉保養ランド(大分県別府温泉明礬温泉),すずめの湯(熊本県地獄温泉),三朝温泉(鳥取県), 後生掛温泉(秋田県)

飲泉

各所、禁忌の場合もあるので、飲む場合は注意が必要。

湯の花小屋

別府市の別府温泉明礬温泉の湯の花(明礬)製造技術は国の重要無形民俗文化財に指定されている。

地獄蒸し

別府市の別府温泉鉄輪温泉が有名。
温泉の蒸気熱を利用した地獄釜で魚や野菜を蒸す。
成分が逃げないのが特徴。

温泉卵

高温の源泉につけて卵をゆでる。

野沢温泉(長野県)では、収穫後の野沢菜の下ごしらえに利用したり、冬季に凍っている野沢菜をゆでるために温泉を用いている。
また下ごしらえの場所として共同浴場の湯船を利用することでも知られている。

温泉納豆

黒石温泉郷や、四万温泉などで見られる。

ファンゴティカ

別府では、多彩な泉質の源泉に見られる色とりどりの温泉泥の利用を大分大学医学部、広島大学、日本文理大学、パドバ大学(イタリア)、大分県産業科学技術センターなどが共同で研究して温泉泥美容ファンゴティカが開発されている。

温泉の定義

日本では温泉は温泉法と環境省の鉱泉分析法指針で定義されている。

温泉の要素

温泉には以下の要素がある。

泉温

泉温は湧出口(通常は地表)での温泉水の温度とされる。
泉温の分類としては鉱泉分析法指針では冷鉱泉・微温泉・温泉・高温泉の4種類に分類される。

泉温の分類は、政府や分類者により名称や泉温の範囲が異なるため、世界的に統一されているというわけではない。

溶解成分(泉質)

溶解成分は人為的な規定に基づき分類される。
日本では温泉法及び鉱泉分析法指針で規定されている。
鉱泉分析法指針では、鉱泉の中でも治療の目的に供しうるものを特に療養泉と定義し、特定された八つの物質について更に規定している。
溶解成分の分類は、温泉1kg中の溶存物質量によりなされる。

湧出量

湧出量は地中から地表へ継続的に取り出される水量であり、動力等の人工的な方法で汲み出された場合も含まれる。

温泉の三要素は温泉の特徴を理解するために有益であるが、詳しくは物理的・化学的な性質等に基づいて種々の分類及び規定がなされている。

浸透圧

鉱泉分析法指針では浸透圧に基づき、温泉1キログラム中の溶存物質総量ないし氷点によって 低張性・等張性・高張性 という分類も行っている。

温泉法による温泉の定義

日本では、1948年(昭和23年)7月10日に温泉法が制定された。
この温泉法第2条(定義)によると、温泉とは、以下のうち一つ以上が満たされる「地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)」と定義されている(法的な定義による広義の温泉)。

泉源における水温が摂氏25度以上。
(摂氏25度未満のものは、冷泉または鉱泉と呼ぶ事がある)

以下の成分のうち、いずれか1つ以上のものを含む。
(含有量は1kg中)

溶存物質(気体性のものを除く。)
総量1000mg以上

遊離炭酸(CO2) 250mg以上

リチウムイオン(Li+) 1mg以上

ストロンチウムイオン(Sr++) 10mg以上

バリウムイオン(Ba++) 5mg以上

鉄イオン(Fe++,Fe+++) 10mg以上

第一マンガンイオン(Mn++) 10mg以上

水素イオン(H+) 1mg以上

臭素イオン(Br-) 5mg以上

ヨウ素イオン(I-) 1mg以上

フッ素イオン(F-) 2mg以上

ヒ素ヒドロひ酸イオン(HAsO4--) 1.3mg以上

三酸化二ヒ素(HAsO2) 1mg以上

総硫黄(S)HS-,S2O3--,H2Sに対応するもの 1mg以上

メタホウ酸(HBO2) 5mg以上(殺菌や消毒作用がある塩化物質)。
眼科で目の洗浄や消毒に使われる。

ケイ酸(H2SiO3) 50mg以上(保温効果を持続させる作用がある)。

炭酸水素ナトリウム(NaHCO3) 340mg以上

ラドン(Rn) 20(100億分の1キュリー単位)以上

ラジウム塩(Raとして) 1億分の1mg以上

鉱泉分析法指針による分類

環境省の定める鉱泉分析法指針では「常水」と「鉱水」を区別する。

湧出時の温度が摂氏25度以上であるか、または指定成分が一定の値以上である場合、これを「鉱水」と分類する。
(鉱泉参照)

泉温

鉱泉分析法指針では湧出または採取したときの温度により以下の四種類に分類される。

冷鉱泉

摂氏25度未満

微温泉

摂氏25度以上摂氏34度未満

温泉

摂氏34度以上摂氏42度未満(狭義の温泉)

高温泉

摂氏42度以上

液性の分類

pH値

湧出時のpH値による分類

酸性

pH3未満

弱酸性

pH3以上6未満

中性

pH6以上7.5未満

弱アルカリ性

pH7.5以上8.5未満

アルカリ性

pH8.5以上

浸透圧の分類

溶存物質総量および凝固点(氷点)による分類

低張性

溶存物質総量 8g/kg未満、氷点-0.55℃以上

等張性

溶存物質総量 8g/kg以上10g/kg未満、氷点-0.55℃未満-0.58℃以上

高張性

溶存物質総量 10g/kg以上、氷点-0.58℃未満

療養泉

鉱泉分析法指針では、治療の目的に供しうる鉱泉を特に療養泉と定義し、特定された八つの物質について更に規定している。

泉源の温度が摂氏25度以上であるか、温泉1kg中に以下のいずれかの成分が規定以上含まれているかすると、鉱泉分析法指針における療養泉を名乗ることができる。

溶存物総量(ガス性のものを除く)

1000mg

遊離二酸化炭素

1000mg

Cu2+

1mg

総鉄イオン(Fe2++Fe3+)

20mg

Al3+

100mg

H+

1mg

総硫黄(HS-,S2O3--,H2Sに対応するもの)

2mg

Rd

111Bq

さらに療養泉は溶存物質の成分と量により以下のように分類される。

塩類泉

溶存物質量(ガス性物質を除く)1g/kg以上

単純温泉

溶存物質量(ガス性物質を除く)1g/kg未満かつ湯温が摂氏25度以上

特殊成分を含む療養泉

特殊成分を一定の値以上に含むもの

温泉の種類

温泉はその含有成分によって分類がなされる。
またその分類も掲示用泉質名、旧泉質名、新泉質名など3種類存在する。
以下は掲示用泉質名の分類である。
温泉の種類は泉質についても参照のこと。
なお、各泉質に記載の効能はあくまで目安で、効果を万人に保証するものではないことに注意する必要がある。

単純温泉

鉱物分・ガス分の含有量が少ない温泉(温泉1kg中に1g未満)。
刺激が少なく肌にやさしい。
無色透明で、無味無臭。
神経痛、筋肉・関節痛、うちみ、くじき、冷え性、疲労回復、健康増進などの一般的適応症に効果があるとされる。
しかしながら、それは泉質による効能ではなく、おおむね温浴によって血行が促進されることによる効果である。

単純温泉は成分の少ない単なる湯、質の低い温泉だと誤解されやすい。
単純温泉とは、成分の含有量だけを評価したものであり成分の種類について規定したものではない。
よって単純温泉とひとくくりにしても個々の泉質は多岐にわたるため単純な比較・分類はできない。
成分の組成比によって、下記の各種温泉の性質を帯びることもある。
また、様々な成分を少量ずつ含んだバランスの良い泉質となっているものもある。

硫黄泉

温泉水1kg中に総硫黄を2mg以上含む温泉。
白濁して卵の腐ったような臭いがある。
概して高温で、ニキビ、オイリー肌、皮膚病、リウマチ、気管支喘息、婦人病などの症状に効果がある。
硫黄イオンはインスリンの生成を促す働きがあるので、糖尿病の症状にも有効。
硫化水素は有毒物質で粘膜・皮膚・呼吸器を強く刺激する。
病中病後で体力が落ちている人や乾燥肌の人は特に注意を必要とする。
リウマチや喘息の患者が安易に入浴することは時として不適切である。
当該患者が硫黄泉の入浴を希望する際は、事前に医師の判断を仰ぐことが望ましい。
硫化水素は金属を腐食させるため、金と白金以外の金属製の装身具を身につけて入浴してはならない。
特に銀は著しく反応して輝きを失い黒くなる。

塩化物泉

温泉水1kg中の含有成分が1g以上あり、陰イオンの主成分が塩素イオンの温泉。
主な効用としては、外傷、慢性皮膚病、打ち身、ねんざ、慢性リウマチ、不妊症、痛風、血管硬化症などがあげられる。
飲用は慢性消化器病に効く(飲泉は、医師の指導を受け、飲用の許可がおりている場所で、注意事項を守って行うこと)。

含鉄泉

温泉水1kg中に総鉄イオンを20mg以上含む温泉。
水中の鉄分が空気に触れて酸化するため、茶褐色を呈する。
殺菌消毒作用がある。
この泉質の温泉は保湿効果が高いので体がよく温まり、貧血にも効く。

含銅・鉄泉

銅及び鉄を含む温泉。
水中の金属分が空気に触れる事によって酸化するため、湯の色は黄色である。
含鉄泉同様、炭酸水素塩系のものと硫酸塩系のものがある。
血症、高血圧症などに効く。

含アルミニウム泉

アルミニウムを主成分とする温泉。
旧泉質名は、明礬泉、緑礬泉など。
殺菌消毒作用がある。
肌のハリを回復させる効果があり、また慢性皮膚病、水虫、じんましんなどにも効く。
明礬泉はとくに眼病に効果があるとされる。

酸性泉

多量の水素イオンを含有する温泉。
多くの場合、遊離した硫酸・塩酸などの形で含まれる。
刺激が強く、殺菌効果が高い。
また、古い肌を剥がし新しい肌に刺激を与えて自然治癒力を高める効果もある。
水虫や湿疹など、慢性皮膚病に効く。
肌の弱い人は入浴を控えるか、入浴後に真水で体をしっかり洗い流すなどの配慮が必要。

炭酸水素塩泉

酸と塩基の湯。
炭酸水素ナトリウム泉、重炭酸土類泉に分類される。
重曹泉の温泉への入浴は、皮膚をなめらかにする美肌効果がある。
疲労回復、病後の体力補強、外傷、皮膚病にも効果がある。
飲泉すると胃炎に効くといわれる。
重炭酸土類泉の温泉は炎症を抑える効果があるので、入浴は、外傷、皮膚病、アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患などに効く。
飲泉は、痛風、尿酸結石、糖尿病によいとされる。
万人向けの泉質であるが、アルカリ性の強さによっては入浴後に皮膚の弱い部位に軽微な炎症が起きることがある。
それは一過性のものであるが、皮膚の弱い人は温泉から出る際に真水で身体を洗い流しておくとよい。

二酸化炭素泉

温泉水1kg中に遊離炭酸1g以上を含む温泉。
入浴による効果は、心臓病や高血圧の改善。
飲泉は便秘や食欲不振によいとされる。
ただしこの効果は血液中の酸素分圧を下げることによって得られるため、循環器および呼吸器の疾病を持つ患者がむやみに入浴すると、過度な刺激となり症状を悪化させるおそれがある。
このような患者が二酸化炭素泉への入浴を希望する場合は、あらかじめ医師に相談することが好ましい。
入浴許可を受けたとしても、長時間の入浴は避けた方が無難である。

放射能泉

温泉水1kg中にラドンを3ナノキュリー以上含む温泉。
これらが放つ放射線は人体に被曝を及ぼす可能性は小さく、ホルミシス効果で免疫を活性化させるので、むしろ健康のではないかと考えられている。

皮膚病、婦人病を始め様々な病気や外傷に効果があるといわれている。
特に良いとされるのは痛風、低血圧、循環器障害である。
癌の発育を妨げることがあるのではないかとも言われている。
ただいずれの適応症も今のところ確たる根拠に基づいた医療が得られておらず、今後の研究が待たれるところである。
ラドン温泉の治療効果を解明すべく、三朝温泉には岡山大学医学部附属病院三朝医療センターが設置されており、本格的な研究を行っている。

硫酸塩泉

硫酸塩が含まれる。
苦味のある味。
硫酸ナトリウム泉、石膏泉、正苦味泉に分かれる。
血行をよくする働きがある。
入浴効果は外傷や痛風、肩こり、腰痛、神経痛などに効く。
飲泉は便秘やじんましんに効く。
硫酸塩は、強張った患部(硬くなった肌)を柔らかくして動きやすくする働きを持っているため痛風や神経痛の症状に効果が高い。
硫酸塩の中でも、硫酸カルシウムを多く含む泉質の場合、とろりとした滑らかな触感を伴う。
硫酸カルシウムは石膏の成分であるためである。
まれに誤解されるのが、硫酸が含まれていて危険ということである。
硫酸は危険な物質だが、硫酸ナトリウム・硫酸マグネシウムなどは無害な物質である。
また、硫化水素泉のような悪臭も放たない。
硫酸塩泉は温泉入浴を禁じられている人以外にはこれといった弊害のない無難な泉質である。
家庭用入浴剤の多くが、硫酸塩泉と似た組成である。

温泉マーク

温泉マークの文字参照による表記方法は、♨(♨)である。

発祥は3説存在する。
詳細は温泉マークを参照の事。

世界の温泉

世界的に温泉の利用形態は大きく分けて、入浴して体を休める(日本ではこれが主流)、入浴して療養する、入浴して楽しむ(泳ぐなど)、そして飲む(飲泉)、蒸気を利用する(サウナや蒸し風呂)に大別される。
入浴して体を休めるのは湿潤な気候に反映した日本独自の文化(例外的にアジアの一部で日本的な入浴が広まっている)である。
世界的には楽しむ、療養する、あるいは飲むもの、蒸すものとして認識されている。
だが、今日の日本文化のブームやonsen文化の浸透(後述)によって、日本式の入浴が世界中で拡がっている部分も見られる。

ヨーロッパと温泉

ヨーロッパでは特に「温泉を飲む」、すなわち飲泉が温泉文化として深く根付いている。
カルルス温泉の由来にもなった有名なカルルスバードなどは飲泉のための温泉地である。

ヨーロッパでも15世紀までは入浴が主であった。
しかし、火山帯が少ないため湯量が少なく、また泉温が低かったため、温泉地は発展しなかった。
また、ペストなどの伝染病蔓延や宗教的理由による社会背景などにより、入浴が身体を害するものとみなされ、入浴という習慣が敬遠されていった(詳しくは入浴の項を参照)。
一方、ヨーロッパでは飲用水の質が悪く、そのため一部の入浴客は温泉水を飲用していた。
これに目を付けた温泉地は瓶詰めにして売り出した。
これが大変な評判を呼び、以後は”温泉は飲むもの”、すなわち飲泉が文化として根付いた。
有名なエビアン (ミネラルウォーター)やヴィシーなども温泉水である。
なお、日本においてもウィルキンソン・ジンジャーエールなどは初期に炭酸泉水を原料としていた。

またこれにより、温泉水を直に飲用したことで医療効果が鮮明であったことから、飲泉と医学がすぐに結びついた。
これは日本の温泉が、流入した西洋医学の崇拝が妨げとなって、しばらく温泉療法が民間療法と見做されて研究が遅れたのとは対称的である。
(尤も、陸海軍の大規模な傷病者施設のあった別府温泉や、三朝温泉など一部の温泉では温泉病院が設けられたり近隣の大学と結びつき、営々と研究も行われていた)

今日温泉町として知られるバースやカルルスバードなどは保養地としても発展し、温泉病院や老後施設なども完備する。
温泉による保養という点では日本と同じである。
また、ホテルやレストランも建てられているが、中に入浴用の温泉は存在しない(ヨーロッパ、特に西欧や東欧は日本ほど湿潤でないことも入浴文化が発展しなかった大きな理由である)。
代わりに飲泉場や飲泉バー (酒場)が設けられている。

対してバーデンバーデンやスパなどのように入浴用として形成された温泉地も少数ながら存在する。
しかし、いずれも日本の温泉のように「浸かる」という概念が存在しない。
ドイツのバーデンバーデンは温泉としてより、むしろ付随するカジノやブティック、宝石店や高級ホテルなどによるリゾート地として発展した。
温泉はサウナやシャワーなどにも利用される。
その他、共同浴場が設けられており、温泉水の大浴槽でプール感覚と同様に泳ぐ者も多い(日本ではマナー違反とされる)。
また、日本のように裸で入浴するという習慣はなく、水着を着用する。
そのために、男湯や女湯と隔てることもない場合が多い。
その意味で、日本の温水プールのような具合で湯に親しむ場所となっていると言える。
このような例は後述するニュージーランドの例がある。

また、国際的な温泉地の固定名称にもなったベルギーのスパは療養向けに発展した温泉地である。
温泉街の規模が小さく、ホテルの個室内に療養用の浴槽が設けられており、日本の湯治向け温泉に雰囲気が似ている。
だが、湯船に入るのは専ら療養目的であるので、日本のように”ゆったり浸って疲れを癒す”という概念は存在しない。

ハンガリーでは古代ローマ時代から公衆浴場が建設され、2000年近くに渡る温泉文化を持っている。
ブダペストは温泉に恵まれている。
また、温水湖(Hévíz湖)も存在する。

アメリカ合衆国と温泉

アメリカ大陸には日本ほどではないが、一部の火山帯を中心に温泉が点在する。
その中で最も有名なのがアーカンソー州にあるホットスプリングスである。
1541年にスペイン人が原住民が古くから使用していた温泉を発見し、ここをホットスプリング(すなわち、熱い湯の吹き出る場所)と名付けた。
しかし、ここは湯量が豊富であるにも関わらず、西欧と同様湿度が低いために入浴の必要が無い。
したがって、あくまでシャワー、サウナやマッサージとして使用されるにとどまっており、付随するカジノなどのリゾート施設が発展を後押ししている。
また、ホットスプリングスも漫然として健康に良いと見做されていただけであり、温泉と医学も結びつかなかった。
そのため、国の広さに対して、温泉開発自体が途上状態にある。

アジア諸国と温泉

大韓民国では日本に似た”浸かる”温泉文化が根付いている。
これは日韓併合に伴い、日本人が朝鮮半島で温泉開発を行ったことに因るものである。
韓国は火山が少ないが、高温が噴出する温泉が多く存在する。
しかし、日本とは文化的な相違があり、初めて訪れる日本人はカルチャーショックを受けることがある(たとえば、入浴の際に何も持たない)。
また、汗蒸と呼ばれる伝統的な蒸し風呂がある。

オセアニアと温泉

オセアニアで有名な温泉大国はニュージーランドである。
国内には火山が多いために、温泉地も数多く存在する。
原住民のマオリの人々も温泉の効能を知っており、温泉を療養に用いてたという。
20世紀前半には国を挙げて豊富な温泉水に目を向け、滞在型の温泉リゾートを開発しようとした。
しかし、日本ほど湿潤な気候でないことと、入植した白人には入浴という習慣が根付いていなかったため、さほど進展しなかった。
今日、ニュージーランドの温泉はスポーツやエクササイズといった健康面で結びつき、あくまでスポーツやアウトドア後に汗を流すための保養施設として発展している。
また、温泉水を利用した温泉プールは非常に人気があり、温泉地の主力施設となっている。

Onsen

2003年頃から、「Onsen」を世界で通用する言葉にする運動がある。
これは、一般的な英語訳である「Hot Spring」では熱水が湧出する場所、「Spa」では療養温泉という意味があり(元はフォーミュラ1ベルギーグランプリ開催地としても有名なスパ (ベルギー)に由来する)、日本の一般的な温泉のイメージとどちらも離れているからである。
「Onsen」を世界で通用する言葉にする運動は、草津温泉などが積極的に行っている。
別府市の行政組織には「ONSENツーリズム部」がある。

その為か最近では温泉をメインとし日本を訪れる外国人観光客も増え始めている。
海外からの温泉旅行専門のツアーや日本の各地の温泉を紹介する英語版のウェブサイトも見られる.。
テルマルクヴェレ(deThermalquelle)

[English Translation]