白浪物 (Shiranami-mono (a Kabuki Play))
白浪物(しらなみもの)とは歌舞伎の演目の種類名。
盗賊を主人公とする。
概略
白浪役者と白浪作者
ペリー来航後の騒然とした世相下、幕府の権威は落ち治安が乱れ騒然とした雰囲気であった。
そんな中、講釈師松林伯円演じる盗賊の講談物が人気を集め「泥棒伯円」と呼ばれていた。
黙阿弥は名優市川小團次 (4代目)のためにそれらを脚色した。
これが白浪物の起こりである。
ゆえに人々は小團次を「白浪役者」「泥棒小團次」、黙阿弥を「白浪作者」と呼んだ。
主要作品名
小團次主演では、「都鳥廓白浪」(通称忍ぶの惣太)(1854)・「鼠小紋東君新形」(通称 鼠小僧)(1857)・「網模様燈籠菊桐」(通称 小猿七之助)(1857)・「小袖曽我薊色縫」(通称 十六夜清心)(1859)・「三人吉三廓初買」(通称 三人吉三)(1860)・「船打込橋間白浪」(通称 鋳掛け松)(1866)。
尾上菊五郎 (5代目)主演の「青砥稿花紅彩画」(通称 白浪五人男)(1862)。
三代目澤村田之助主演の「処女翫浮名横櫛」(通称 切られお富)などがある。
明治以降も、「霜夜鐘十時辻占」(1879)・「天衣粉上野初花」(通称 河内山と直侍)(1881)・「島鵆月白浪」(通称 島ちどり)(1881)・「四千両小判梅葉」(1885)・「盲長屋梅加賀鳶」(1886)などの作品が作られ、いずれも今日の歌舞伎における重要な演目となっている。
「白浪物」の盗賊
「白浪物」に登場する主人公は、いずれも石川五右衛門や児雷也のような大盗賊ではなく、市井に住む平凡な男女がよんどころない理由で盗賊となる。
義理人情に翻弄された揚句に自滅するか改心して縛につくというものである。
南北物のようなふてぶてしさは見られず勧善懲悪という常套的な筋が多いのでドラマとして迫力に欠ける嫌いはある。
しかし、七五調のリズミカルな台詞や下座音楽を効果的に用いた黙阿弥独自の叙情的な作劇術は幕末退廃期の雰囲気を濃厚に表す。
また小團次がリアルな芸風を目指したこともあり当時の世相を伺う良い資料である。