納豆 (Natto (fermented soybeans))

納豆(なっとう)は大豆を納豆菌によって発酵させた日本の食品。
現在では単に「納豆」と言えば、糸引き納豆の事を指すのが一般的である。
糸引き納豆以外の種類は種類を参照のこと。

概要

日本全国において食べられているが、以前は近畿地方・四国地方ではあまり消費されなかった。
製法や菌の改良などで匂いを少なくしたり、含まれる成分の内「ナットウキナーゼ」の健康増進効果がテレビなどのメディア (媒体)で伝えられるようになった結果、1990年代後半にはほぼ日本中で消費されるようになった。

7月10日は「納豆の日」とされている。
これは1981年、関西での納豆消費拡大のため、関西納豆工業協同組合がなっ(7)とう(10)の語呂合わせで制定したものである。
1992年、全国納豆工業協同組合連合会が改めて「納豆の日」として制定した。
しかし「納豆」「納豆汁」が冬の季語である事や、「納豆時に医者要らず」という諺があったように、元々納豆の時期は冬とされている。
そのため7月に納豆の日を設けることには異論もある。

栄養・効果

血液凝固因子を作るのに不可欠なビタミンKや大豆由来のタンパク質も豊富であり、現在でも重要なタンパク質源となっている。
総務省統計局の全国物価統計調査の調査品目にも採用されている。
食物繊維は100グラム中に4.9~7.6グラムと豊富に含まれる。
食物繊維はオリゴ糖等と共にプレバイオティクスと呼ばれる腸内環境に有用な成分である。
納豆菌はプロバイオティクスと呼ばれ、これも腸内環境に有用と考えられている。
O157を抗菌することがわかっている。

納豆には血栓を溶かす酵素が含まれており、納豆の摂取によって血栓が溶けた場合の分解成分であるFDPが血中に増えることが確認されている。

名称

納豆は元来精進料理として納所(なっしょ、寺院の倉庫)で作られた食品であり、これが名前の由来である。

「本来は豆を納めたものが『納豆』、豆を腐らせたものが『豆腐』だったのが、いつの間にか名前が取り違えられた」などとも言われるが、近代になって作られた俗説に過ぎない。
漢語における豆腐の「腐」は腐る意味ではなく、チーズのように凝固した食品(英語のカード (食品) curd にあたる)を指す。

作り方

伝統的な納豆の作り方は、蒸した大豆を稲の藁で包み、40度程度に保温し約1日ほど置いておく。
稲藁に付着している納豆菌が大豆に移行し、増殖することによって発酵が起こり、納豆ができあがる。

近年では、大量生産の要求に応えるため、あるいは伝統的な製法では良質の藁を確保すること等が困難なこともあり、純粋培養した納豆菌を用いる製造が主流である。
つまり、蒸した大豆を発泡スチロール容器や紙パックに装填し、これに純粋培養した納豆菌の分散液をかける。
これを適温で保温すると、納豆菌が増殖し発酵する。
流通段階での発酵の進み具合も勘案し、適度な発酵に至った段階で、消費期限やブランド銘が記された包装を施し出荷する。

納豆と衛生面

製法にかかわらず、業として納豆を製造するには、食品衛生法に基づき都道府県知事の許可が必要である。

市販の納豆の大部分は、純粋培養した納豆菌を種菌(たねきん)として用いる製法によって製造されている。

稲藁を用いた伝統的な製法による納豆も少ないながら製造され流通している。
この製法での納豆菌は耐熱性の高い芽胞となって藁に付着している。
100°Cで沸騰している湯に数分浸すと大部分の雑菌が煮沸されて死滅し、納豆菌芽胞が生き残る。
その後、ゆでた大豆を藁と接触させ37度から42度に保つと、納豆菌は芽胞から発芽し増殖を始める。
そして、その旺盛な繁殖力で、死滅を逃れた他の芽胞菌類に先んじて栄養となる物質を消費し、他の微生物の繁殖を阻む。

いずれにせよ、日本国内で流通する市販品は、食品としての基準に適合するよう管理され製造されていると見做して良い。

なお、敢えて自家で納豆を作ることを試みる場合には、いくつかの留意点がある。
納豆菌は酸にはやや弱く、乳酸菌の活動によって生まれる乳酸によって活動が阻害される事がある。
また技術開発の結果普及した匂いの弱い種の納豆では、活動がさほどおう盛ではない菌株が用いられており、環境によっては雑菌が繁殖する余地がある。
また、納豆菌の天敵として細菌寄生性ウイルスのバクテリオファージがあり、ファージ活動後に雑菌が繁殖する事もありうる。
特に納豆菌繁殖前の茹でた大豆には雑菌が極めて繁殖しやすい。
自家製といえども食用に供するには衛生面でのそれなりの配慮が必要である。

納豆が苦手なひとのなかには納豆を指して「腐った煮豆」などと形容する例も見られる。
しかし腐敗と発酵との違いは、専ら、微生物が作用した結果が有害(無益)なものかあるいは有用なものかという価値判断に基づくものである。
したがって、食品として十分衛生的に製造され、(世界的に見れば一部かもしれないが)多くの人に嗜好され、栄養的に価値が高い納豆は優れた「発酵」食品である。

日本酒を作る際に、熱に強い芽胞を形成しかつ繁殖力も旺盛な納豆菌が蒸米に混入すると、コウジカビよりも先に繁殖し駆逐し得る。
この場合納豆菌は粘り麹を生む好ましからざる雑菌となる。
酒造り職人の食卓において、日本酒の仕込み期間中の納豆は禁忌とされている所以である。

食べ方

最も典型的な食べ方はいわゆる納豆ご飯で、白米を炊いたご飯と、納豆を一緒に食べるもの。
これは一般的に醤油やタレ、からしを加える。
かき混ぜ、粘性のある糸が現れてから食べる。
鶏卵やウズラの卵、ネギ、ミョウガ、大根おろし、鰹節など、様々な食品を混ぜて食べることも多い。
食文化としては、ご飯にかけずに納豆だけを食べる地方の存在が知られている。
また、北海道・東北地方の一部で砂糖を加えることが知られている。

ネギやからしを加えると納豆のアンモニア臭を抑える効果があり、優れた薬味といえる。
ネギやからしを途中で加えずに、蕎麦のネギやわさびと同様に最後に少しだけ載せた方がおいしいという人もいる。
臭いが苦手の人の中には、からしの代わりにワサビを載せる人もいる。

納豆を美味しく食べるためには良く練ることである。
これは、先にタレなどを加えると水分過多となってしまい、グルタミン酸(旨味成分)を含む粘りがあまり出なくなってしまうからである。
また、100回ほど混ぜると、ポリグルタミン酸をグルタミン酸に変えることができるという根拠のない迷信が伝わっているが、実際にはそこまで混ぜなくてもグルタミン酸に変わる。

和風スパゲッティのトッピング、お好み焼きの具、カレーライス、ラーメンにかけるなどとしても用いられる。
また納豆を叩き刻んで味噌汁に入れた納豆汁は、江戸時代までは納豆ご飯よりも頻繁に食卓に上っていた。

加熱調理については、匂いが強くなるので好みが分かれる。
ただし納豆天ぷらの場合、油で揚げることによって匂いがあらかた飛び、さらに天ぷらの衣で匂いが抑えられるのでむしろ食べやすくなる。

販売方法

近年では減っているが、「納豆売り」と呼ばれる行商人が納豆を売り歩くこともあった。
売り声は「なっと〜〜、なっと〜〜ィ(語尾をあげる)」というものであった。

現在では主にスーパーマーケットの食料品売り場などで販売されている他、自動販売機での販売も増えている。
また、茨城県や埼玉県川越市などでは土産物(名産品)として販売している場合もある。

包装方法

伝統的な包装方法では、納豆の製造で使用した藁をそのまま藁苞(わらづと)とするか、経木に納豆を包んでいた。

1960年代以降は、流通面で効率的なことなどから、一般的には発泡スチロール容器が使われている。
発泡スチロール容器は積み重ねられる形状になっていて、2~4つを1セットとして売られている場合も多い。
また、納豆を容器に入れたままかき混ぜて糸を引くことができるように、底に凹凸が付けられるなどの工夫もなされている。

発泡スチロール容器の普及は納豆の消費拡大に大きく貢献した。
ただし、藁に比べると通気性が悪く、また納豆の臭い成分を吸着しにくいために、納豆独特の臭いがこもって強くなる傾向がある。
こうした風味の違いや、「自然食品」的なイメージから、一部の高級品や自然志向の商品、土産物では現在でも藁や経木を使う場合がある。

なお、現在の納豆には、カラシと納豆用のタレが付属することが多い。

2008年には、ミツカンが新改良の発泡スチロール容器の製品を発売した。
これは同梱のタレを従来の液状袋入りからペースト状にして容器内の小室に直接注入したものである。
これにより、納豆とタレ袋を分離するフィルムを廃して通気性を向上させると共にタレとの混合を容易にしている。
ただし長時間容器を傾けて運搬・保存できないという欠点がある。

種類

下記の他に、大豆の粒の大小による区別もあり、概して東北地方は大粒が目立つ傾向がある。
また、山形県酒田市の塩納豆、熊本県の金山寺納豆などローカル色に富んだ納豆もある。

塩辛納豆(寺納豆)

現在では、納豆と言えば、納豆菌を発酵させたいわゆる糸引き納豆を指す。
その他にも麹菌を発酵させた後乾燥させてから熟成した塩辛納豆(寺納豆)と呼ばれる納豆がある。
麹菌納豆は古代中国(紀元前2世紀頃)からの遺跡等から出土している。
日本にはおそらく奈良時代頃に伝来した豉(し、日本ではくきと読まれ久喜の字もあてられていた)と考えられている塩豉(後の塩辛納豆)と淡豉(平安以降歴史から姿を消す)との2種類がある。
そのままではなく調味料として使われていた。

平安時代の文献にも塩辛納豆の名は残っているが、一般に広まったのは室町時代以降。
この頃から糸引き納豆も登場しており区別するために塩辛納豆を久喜と呼び糸引き納豆を単に納豆と呼ぶようになった。
またこの頃北宋・南宋に渡航した僧が再度持ち帰り広めたことから寺納豆とも呼ばれるようになった。
今でも京都府の大徳寺納豆・天竜寺納豆・一休寺納豆や静岡県浜松市の浜納豆(浜名納豆)などが作り続けられている。

ひきわり納豆

挽き割り、即ち砕いた大豆によって作られる納豆。
納豆汁によく用いられる。
普通の納豆より発酵が早く、消化が良いとされる。
ひきわり納豆に対し、通常の割っていない大豆を使った納豆は「粒納豆」と呼ばれる。

秋田県で古くから作られていた手法で、一般にはヤマダフーズが販売したものが発祥とされる。
同社によると、大豆1粒を6つくらいに割る。
また同社では、15ほどに細かく割った「きざみ納豆」も販売している。

そぼろ納豆

茨城県特産。
おぼろ納豆、しょぼろ納豆とも呼ぶ。
納豆に刻んだ切り干し大根を混ぜ込み、醤油等の調味料で味をつけたもの。
そのまま酒のつまみとして食べたり、ご飯にかけて食べたりする。

干し納豆

茨城県特産。
納豆を天日干しすることにより長期保存可能にしたもの。
なお納豆を乾燥させても、納豆菌は死滅しない。
食べ方としてはそのまま食べるほか、湯につけてもどす、お茶漬けにするなどがある。

元来は保存食だったとされるが、現在は納豆の入手できない海外へ旅行に行く際に持っていく場合があるという。

揚げ納豆

干し納豆に近いが、これは納豆を油で揚げ、粘り気を取り去ったもの。
納豆独特の臭いも目立たない。
揚げても納豆菌が死滅しないように、特別な製造技術が用いられている。
そのまま酒のつまみとして食べる事が多い。
しょうゆ・塩・梅・一味唐辛子などの味がつけられている。
日本航空の国際線機内でも酒肴として提供されている。

塩納豆

高知県の一部の地域の郷土料理。
納豆に塩と糠をまぶして鉄鍋で炒る。
伝統的な製法では、市販の納豆の代わりに蒸した大豆を籾殻の中に入れ、糸を引くようになったものを用いる。

甘納豆

1857年(安政4年)に栄太楼が開発した和菓子で、ここまで述べてきた発酵食品の納豆とは全く別物である。
当初は浜名納豆(浜納豆)に似せて甘名納糖と名づけられた。
名前が簡略化されて甘納豆と呼ばれるようになったのは戦後のことである。
近畿地方では、単に納豆と言えば甘納豆を指す場合もある。

秋田県

- 仙北郡美郷町_(秋田県)に「納豆発祥の地」の碑がある。
また、秋田音頭に「桧山納豆」(能代市桧山地区)が秋田名物の一つとして謳われている。

茨城県水戸市

- 明治以降、鉄道(水戸線)の開通に伴い、土産品として売られた(天狗納豆が発祥とされる)のをきっかけに、産地としてもっとも知られている。
毎年3月10日 (水戸の日)に「納豆早食い大会」が開催されている。

熊本県

- 九州では例外的に古くから普及している。
これは、加藤清正が文禄・慶長の役の際濡れた大豆を馬に積んでいたのが馬の高い体温で発酵し納豆になったとの言い伝えがあるからだとされる。
全国規模の納豆製造会社(丸美屋)がある。
スーパーマーケットで普通に売られていて、消費量も多い。

一般に消費量は東日本が多く、特に北関東から南東北にかけて消費量が多い。
生産量日本一は茨城県、消費量日本一は福島県である。
西日本(特に近畿)ではあまり食べる習慣が無いとされ、消費量最下位は和歌山県である。
しかし、近年は関西地方でもスーパーなどで10銘柄程度の商品が普通に売られ、陳列スペースもほとんど関東と変わらなくなっている。

日本国外

日系アメリカ人移民の多いハワイ州では、現地の豆腐製造業者が実際に納豆を製造、販売している。

以下の地域では、納豆と似た大豆発酵食品が製造されている

ヒマラヤ山脈麓のネパールなど南アジア、中国雲南省から東南アジアにかけた地域。

朝鮮半島:清麹醤。

ブーム

2007年1月7日に放送された関西テレビ放送・フジテレビジョンの教養番組「発掘!あるある大事典」で、納豆の摂取はダイエットに効果があると紹介された。
そのため、消費者がこぞって納豆を買い求め、一時品薄状態になった。
しかし、番組で紹介されたデータは捏造だったことが後に判明した。

[English Translation]