花よりも花の如く (Hanayorimo Hananogotoku)

『花よりも花の如く』(はなよりもはなのごとく)は、能をテーマとした成田美名子による漫画作品。
2001年より『月刊メロディ』に連載されていたが、『月刊メロディ』は本作連載中の2006年に隔月刊誌『MELODY』にリニューアルした。

概要

作者の前作『NATURAL (漫画)』に登場した榊原西門の兄である能楽師・榊原憲人(正しくは「のりと」だが、概して作中では「けんと」と呼ばれている)を主人公としたスピンオフ作品。
前作完結後に「外伝」として「花よりも花の如く」「天の響」の2編が描かれた後、正式に連載が始まった。

外伝登場時は主人公は内弟子になる直前であったが、単行本第2巻収録「風天」で内弟子修行期間を終え、玄人の能楽師として独立。
能楽界に生きる人々の日常、創風会所属の若手能楽師たちの心の動きなどを描いている。

登場人物

相葉家の能楽師たち
榊原憲人 (さかきばら のりと)
主人公。
シテ方能楽師。
2歳時より子方として修行し、22歳の時に相葉左右十郎の内弟子となる。
初シテは『経正』。
3巻で『石橋』、5巻で『猩々乱』を披いている。
相葉左右十郎の外孫。

名前の由来は「祝詞」から。
何故か家族を含む周囲の人間からは音読みの「けんと」としか呼ばれない。

基本的に穏やかな人物だが、真顔でボケてみせるなど、真面目一辺倒ではない側面もある。
役柄について思索する時に、仰向けに寝て足を天井方向に真っ直ぐ向ける姿勢をとる癖がある。

外見的に顔の造作は悪くないらしいが西門・彩紀ら弟妹に比べ地味で目立たない。
その上眼鏡をかけているせいか、西門に「のび太」呼ばわりされた事がある。

弓道もたしなんでいる。

相葉左右十郎 (あいば そうじゅうろう)
能楽師。
本名は相葉尋人 (あいばひろと)。
1925年生まれ。
シテ方で創風会の芸事責任者。
憲人の母方の祖父。
2巻122ページで能『養老 (能)』を観世流の小書(特殊演出)である「水波之伝」で演じていることから、流派は観世流らしい。

弟子達に稽古をつけるときは、興奮のあまり手が出ることもある。

子供は2人。
長女の冴子は榊原家に嫁いで憲人、西門、彩紀を生んだ。
長男の匠人は能楽師。

相葉匠人(あいば たくと)
1949年生まれ。
創風会所属のシテ方の能楽師で、憲人の最初の師匠。
豪快ながらも粗野にならない芸風とされる。
長男は海人。

相葉海人(あいば かいと)
1989年生まれ。
創風会所属の子方。
悩みながらも能楽師を目指して修行中。

創風会所属の能楽師たち
渡会直継(わたらい なおつぐ)
匠人と同世代の能楽師。
謹厳実直な性格で、周囲からは煙たがられつつも、芸事に対する姿勢の厳しさで一目置かれる存在。

渡会直角(わたらい なおずみ)
渡会直継の息子。
内弟子として連雀に住込み修行中。
父の厳格さを敬遠して京都の大学に進学、能からも一時遠ざかるが、ニューヨークで左右十郎シテ、憲人ツレにより演じられた「恋重荷」を見て能楽師を志す。
大学卒業後に相葉左右十郎に弟子入りしたので楽より年上だが弟弟子に当たる。

英語が堪能で頭の回転も速い現代っ子。
また合理的な思考方法の持ち主であり、左右十郎門下で飾り帯の仕舞い方が統一されていない点を臆せずに指摘したこともある。

楽と同じように彩紀が気になるらしく、何かにつけ積極的に声をかけている様子。
憲人に「目が可愛い」と言われてコンタクトにするといった素直な一面も。

森澤楽(もりさわ がく)
憲人の弟弟子。
内弟子として連雀に住込み修行中。
父親も創風会所属の能楽師、森澤陸。
子方時代の後に奈良に住んで能から遠ざかっていたが、高校卒業後に東京へ戻って内弟子となる。
天然の茶髪。
子方時代は黒く染めて隠していたものの、諸事情から中学を境に地毛で通すと決意。
能楽師の道に進む時にはそれが議論の種となったが、理解者を増やし、ゆっくりと受け入れられていった。

性格は寡黙で大人しく、やや天然でマイペース。
語彙数が少ないのと天然ボケとが相俟ってトンチンカンな受け答えをする事もしばしば。
その一方で他人の気持ちを察して行動することも上手い。

ある場所にいる時、その場所にかつて存在した人間の「思い」が感じられるという不思議な能力を持つ。

彩紀のことを意識しているような描写もある。

五十嵐陽一(いがらし よういち)
若手の能楽師で憲人の先輩に当たる。
宮本芳年・白石航らと若手の会「暁光会」設立。

石井安貴(いしい やすたか)
創風会所属の能楽師。
憲人の弟弟子で楽・直角の兄弟子に当たる。

岩村栗太郎(いわむら くりたろう)
創風会所属の能楽師「岩村さん」の息子の子方。
予知能力のようなものがあり絵に描いたことが現実に起こる、ハゲを治す力を秘めた手を持っているなど、不思議な少年。

その他の能楽師たち
宮本芳年 (みやもと ほうねん)
狂言師。
本名は芳年(よしとし)で、陽一には「としちゃん」と呼ばれる。
ドラマやTVにも出ており、知名度も高い。
一方で茶目っ気があり、旅先(韓国)のホテルから憲人に「五十嵐(市祐か陽一かは不明)」の名を騙って電話するなど、真顔で憲人をからかうところがある。
ちなみにこのイタ電のエピソードは実在の能楽師が行った実話。
「暁光会」のメンバー。

坂元宏哉(さかもと ひろや)
憲人の幼なじみで、憲人が最も信頼を寄せる若手のワキ方。

白石航(しろいし こう)
笛方。
「暁光会」のメンバー。
芳年とは幼馴染みでよく世話(ちょっかい?)を焼いている。

五十嵐市祐(いがらし いちすけ)
「囃子方の重鎮」とされる。
相葉尋人の幼なじみらしく、「イっちゃん」「左右(そう)ちゃん」と呼び合う仲である。
妻とは数年前に死別。
創風会のニューヨーク公演にも同行するなど、創風会とは縁が深い。
五十嵐陽一との血縁関係は不明。

その他登場人物
榊原西門(さかきばら さいもん)
憲人の弟だが、5歳の時に青森の伯父の家に養子に行った。
名前の由来は祭文。
神道の神官で、現在は東京で大学院在学中。
卒業後は美容師の資格取得を目指す。
西門が神職の一人として参加した結婚式で、西門の元彼女であった花嫁が西門を見て式の最中にドタキャンした事が養父の怒りを買い仕送りを止められた結果、現在も実家に転がり込んでいる。
なお、花嫁の片想いにつきこの元カノは以後登場しない。

榊原彩紀(さかきばら さいき)
憲人・西門の妹で大学生。
弓道も嗜む。
名前の由来は祭器。
友人との会話で「今日はおばあちゃまと書生(内弟子)さんたちの買い物」と言ったところ、「いつの時代のお嬢様?!」と驚かれたことがある。

宮本葉月(みやもと はづき)
芳年の妹で、ジャズピアニストと女優をしている。
憲人とテレビドラマで共演予定。

創風会
相葉左右十郎家を芸事責任者とする演能団体。
現在の当主は相葉尋人。
先代左右十郎が真人(1899年生まれ)で先々代左右十郎が和(なごむ、1875年生まれ)。
和の代に左右十郎家は明石から東京に拠点を移し、1928年に創風会を結成した。
千代田区神田(淡路町)に「連雀能舞台」という自宅兼能楽堂を所有している。

連雀能舞台を最初に造ったのは1930年で、舞台披きでは和と真人が「石橋 (能)」を舞った。

相葉左右十郎家
江戸時代から続く古い能楽師の家で、代々の「左右十郎」の書を虫干ししているシーンも描かれている。
「創風会」という一門会を組織して活動。
前述のように観世流らしき描写があり、また内弟子を取っていることから、観世流の職分家の一つと思われる。

次の代は尋人の息子の匠人であるが、その次は憲人になるのか海人になるのかははっきりしていない。
2巻68ページの尋人の台詞では、48年後の「翁付き養老」は憲人がシテを演じるのではないかと言われているので、憲人が名跡を継ぐ可能性もある。
一方、5巻26ページでは海人が「自分が能を辞めたら憲人が左右十郎を継ぐしかない」と発言しているので、匠人から海人に継承される可能性もある。

その他

本作品の監修者は九世観世銕之丞 (9世)で作中に登場する相葉匠人のモデルでもあるが、九世観世銕之亟の妻である五世井上八千代は、同じ「MELODY」誌に連載されている河惣益巳の「玄椿」に、主人公の師匠として実名で度々登場している。

2007年11月6日放送のマンガノゲンバ(NHK衛星第2テレビジョン)で取り上げられ、着物の柄などのスクリーントーンを自作しているなど、作画に対するこだわりが紹介された。

[English Translation]