梅雨 (Baiu (rainy season))
梅雨(ばいう、つゆ。黴雨とも)とは、北海道と小笠原諸島を除く日本、朝鮮半島南部、中華人民共和国の華南や華中の沿海部、および台湾など、東アジアの広範囲において見られる特有の気象で、5月から7月にかけて毎年巡って来る雨の多い期間のこと。
梅雨の時季が始まることを梅雨入り(入梅)、梅雨が終わって夏になることを梅雨明け(出梅)と言う。
ほとんどの地域では気象当局が梅雨入りや梅雨明けの発表を行う。
雨季の一種である。
ただ、雨季が訪れる土地は世界中に多くあるが、梅雨はそれほど雨足の強くない雨が長期に亘って続く点に特徴がある。
このため、カビや食中毒などに注意が必要な季節とされている。
梅雨の語源としては、この時期は梅の実が熟す頃であることからという説がある。
この時期は湿度が高く黴(カビ)が生えやすいことから「黴雨(ばいう)」と呼ばれ、これが同じ音の「梅雨」に転じたという説もある。
この時期は“毎”日のように雨が降るから「梅」という字が当てられたという説もある。
普段の倍、雨が降るから「倍雨」というのはこじつけ。
中国大陸部や台湾では「梅雨」(メイユー)、韓国では「장마」(チャンマ・長霖)という。
中国では、古くは同音の霉雨(メイユー)という字が当てられており、現在も用いられることがある。
「霉」は「黴」のことであり、日本の「黴雨」と同じ意味である。
中国では、梅が熟して黄色くなる時期の雨、という意味の「黄梅雨」(ファンメイユー)もよく用いられる。
原因とメカニズム
梅雨の時期には、以下の4つの気団が東アジアに存在する。
揚子江気団
- 中国北部・モンゴルから満州にかけての地域に存在。
暖かく乾燥した大陸性の気団。
オホーツク海気団
- オホーツク海に存在。
冷たく湿った海洋性の気団。
熱帯モンスーン気団
インドシナ半島・南シナ海から南西諸島近海にかけての地域に存在。
暖かく湿った海洋性の気団。
インド洋の海洋性気団の影響を強く受けている。
小笠原気団
北太平洋西部に存在。
海洋性の気団。
春から夏に季節が移り変わる際、東アジアでは性質の違うこれらの気団がせめぎ合う。
中国大陸方面では北の揚子江気団と南の熱帯モンスーン気団がせめぎあう。
日本列島方面では北のオホーツク海気団と南の小笠原気団が、せめぎあう。
北側の気団同士、南側の気団同士は、性質が似ていることなどから衝突せず、前線は形成されない。
北と南の気団が衝突した部分には、東西数千kmに渡って梅雨前線(ばいうぜんせん)ができ、数ヶ月に渡って少しずつ北上していく。
この前線付近では雨が降り続くが、長雨の期間は各地域で1か月~2か月にもなる。
これが梅雨である。
梅雨前線の最初
冬の間、シベリアから中国大陸にかけての広範囲を、冷たく乾燥したシベリア気団が覆っている。
シベリア気団はしばしば南下して寒波をもたらし、日本の日本海側に大雪を降らせるが、チベット高原では高い山脈が邪魔して気団がそれ以上南下できない。
そのチベット高原の南側、インド~フィリピンにかけての上空を、亜熱帯ジェット気流が流れる。
冬が終わり春が近づくにつれ、シベリア気団は勢力が弱くなり、次第に北上していく。
代わって中国大陸には暖かく乾燥した揚子江気団ができ始め、勢力を強めていく。
春になると、揚子江気団は東の日本列島や朝鮮半島などに移動性高気圧を放出する。
これが偏西風に乗って東に進み、高気圧の間にできた低気圧とともに春の移り変わりやすい天候を作り出している。
春が終わりに差し掛かるにつれて、南シナ海付近にある熱帯モンスーン気団が勢力を増し北上してくる。
すると、揚子江気団と熱帯モンスーン気団が衝突し始める。
地上天気図でみると、揚子江気団からできた高気圧と熱帯モンスーン気団からできた高気圧が南シナ海上でせめぎあい、その間に前線ができていることがわかる。
これが最初の梅雨前線である。
例年、華南や南西諸島南方沖付近で5月上旬に梅雨前線のでき始めとなる雲の帯(専門的には準定常的な雲帯と呼ぶことがある。)が発生する。
明瞭になる梅雨前線
5月上旬には南西諸島も梅雨前線の影響を受け始める。
5月中旬ごろになると、梅雨前線ははっきりと天気図上に現れるようになり、華南や南西諸島付近に停滞する。
一方、初夏に入った5月ごろ、亜熱帯ジェット気流も北上し、チベット高原に差し掛かる。
しかし、チベット高原は上空を流れる亜熱帯ジェット気流よりも標高が高いため、亜熱帯ジェット気流はチベット高原を境に北と南の2つの流れに分かれてしまう。
分かれた亜熱帯ジェット気流のうち、北側の分流は、樺太付近で寒帯ジェット気流と合流する。
さらにこの気流は、カムチャツカ半島付近で南側の分流と合流する。
この合流の影響で上空の大気が滞ると、下降気流が発生して、その下層のオホーツク海上に高気圧ができる。
この高気圧をオホーツク海高気圧といい、この高気圧の母体となる冷たく湿った気団をオホーツク海気団という。
同じごろ、太平洋中部の洋上でも高気圧が勢力を増し、範囲を西に広げてくる。
この高気圧が太平洋高気圧であり、この母体となる暖かく湿った気団を小笠原気団という。
5月下旬から6月上旬ごろになると、九州や四国が梅雨前線の影響下に入り始める。
このころから、梅雨前線の東部ではオホーツク海気団と小笠原気団のせめぎあいの色が濃くなってくる。
一方、華北や朝鮮半島、東日本では、高気圧と低気圧が交互にやってくる春のような天気が続く。
北上する梅雨前線
北上を続ける梅雨前線は、6月中旬に入ると、中国では南嶺山脈付近に停滞、日本では本州付近にまで勢力を広げてくる。
次に梅雨前線は江淮(長江流域・淮河流域)に北上する。
6月下旬には華南や南西諸島が梅雨前線の勢力圏から抜ける。
次に梅雨前線は華北・東北部に北上し、8月中旬・下旬を境に再び南下を始める。
これ以降はいわゆる秋雨であり、前線の名前も秋雨前線に変わる。
しかし、前線の南北の空気を構成する気団は同じである。
梅雨前線の性質
性質の違う2つの空気(気団という)がぶつかる所は大気の状態が不安定になり、前線が発生する。
梅雨前線を構成する気団はいずれも勢力が拮抗しているため、ほぼ同じ地域を南北にゆっくりと移動する停滞前線となる。
2つの高気圧がせめぎあい、勢力のバランスがほぼつり合っているとき、梅雨前線はほとんど動かない。
しかし、2つの高気圧の勢力のバランスが崩れたときや、低気圧が近づいてきたり、前線付近に低気圧が発生したりしたときは、一時的に温暖前線や寒冷前線となることもある。
梅雨前線の活動が太平洋高気圧の勢力拡大によって弱まるか、各地域の北側に押し上げられ、今後前線の影響による雨が降らない状況になったとき、梅雨が終わったとみなされる。
一般に北海道に梅雨はないと言われる。
これは梅雨前線がおもに本州上に停滞することや、梅雨の終わりには前線の勢力が衰え、北上する速度が非常に速くなっていることから、北海道で梅雨によると思われる降水が観測されないことが多いからである。
東北地方では年によっては梅雨明けの発表がされないこともあり、これによって東北地方の夏は実は北海道よりも短いといわれている。
そのため、北海道の中でも比較的温暖な道南(函館など)と、本州の北端に位置する青森県下北・津軽地方とでは、気象学上の夏の長さが極端に異なる。
小笠原諸島は初夏より太平洋高気圧に支配されて梅雨前線が近付けず、真夏の空気に包まれるため、こちらも梅雨がない。
ただし、真夏の空気に包まれる期間が長い分、台風が襲来しやすい。
梅雨前線の南側を構成する2つの気団はともに海洋を本拠地とする気団(海洋性気団)のため、海洋から大量の水蒸気を吸収して湿潤な空気を持っている。
しかし、前線の南北を構成する気団は、お互いの温度差が小さいため、通常はほとんどが乱層雲の弱い雨雲で構成される。
そのため、しとしととあまり強くない雨を長時間降らせる。
しかし、上空に寒気が流入したり、クラウドクラスターと呼ばれる積乱雲の親雲が中国大陸付近から東進してくると、梅雨前線付近で大量の水蒸気が凝結して雲を作り、対流活動が活発化して、しばしば積乱雲を伴った強い雨雲となる。
梅雨前線は、気象学的にはモンスーンをもたらす前線(モンスーン前線)の1つである。
インドをはじめとした南アジアや東南アジアのモンスーンは、インド洋に端を発するモンスーンの気流が原因である。
この気流はさらに東にまで伸びて南シナ海の熱帯モンスーン気団にも影響を与えており、関連性がある。
また梅雨前線付近の上空の大気を見ると、冬の空気と春・秋の空気の境目となる寒帯前線、春・秋の空気と夏の空気の境目となる亜熱帯前線が接近して存在している。
日本
各地域の極値
日本では、各地の地方気象台・気象庁が毎年梅雨入り・梅雨明けの発表をする。
梅雨入り、梅雨明けしたと思われる時期に暫定的な発表を行い、例年9月頃、5月から8月の天候経過を総合的に検討して、最終的なものとしている。
この際、梅雨入り、梅雨明けの期日の修正が行われたり、「特定せず」という表現になることがある。
一般に、南の地域ほど梅雨の到来は早く、沖縄は5月中旬から6月下旬、東北・北陸では6月下旬から7月下旬頃となるのが平均的である。
梅雨の期間はどの地方でも40日から50日前後と大差はないが、期間中の降水量は西や南に行くほど多くなる。
ただし、梅雨前線が停滞したまま立秋を過ぎると、梅雨明けの発表はされなくなる。
しかしこの場合でも翌年には通常通り「梅雨入り」を迎える。
しかし、「梅雨明けがないまま一年を越して重畳的にまた梅雨入りとなる」とは考えられていない。
梅雨期間の終了発表のことを俗に梅雨明け宣言というが、気象庁の発表によって梅雨が明けるわけではない。
基本的に、南から北の方向に梅雨明けになっていくが、必ずしもそのように順番になっていない場合もある。
前線が一部地域に残存してしまうような場合には、より北の地方の方が先に梅雨明けになる場合もある。
過去に、先に梅雨入りした中国地方より後に梅雨入りした北陸地方が先に梅雨明けしたり、関東地方の梅雨明けが西日本より大幅に遅れたりした例がある。
梅雨明けの直前は雨量が増え、豪雨となりやすい。
逆に梅雨明け後から8月上旬くらいまでは「梅雨明け十日」と言って天候が安定することが多く、猛暑に見舞われることもある。
梅雨予想の歴史と意義
気象庁が梅雨入り・梅雨明けの情報提供を始めたのは1955年(昭和30年)頃とされ、「お知らせ」として報道機関に連絡していた。
ただし気象庁としては、この情報提供は積極的に行わない方針であった。
気象情報として発表を始めたのは1986年(昭和61年)になってからである。
理由として大雨による災害に関心を持ってもらうことだったとしている。
中国大陸部・台湾
中国中部・南部、台湾でも梅雨が見られる。
中国大陸部では各都市の気象台が、台湾では台湾気象局が梅雨入りと梅雨明けの発表を行っている。
ある研究では、1971年~2000年の各都市の梅雨入り・梅雨明けの平均値で、長江下流域の梅雨入りは6月14日、梅雨明けは7月10日、淮河流域の梅雨入りは6月18日、梅雨明けは7月11日となっている。
目安として、台湾や華南では、5月中旬ごろに梅雨前線による長雨が始まり6月下旬ごろに終わる。
時間とともにだんだんと長雨の地域は北に移る。
6月中旬ごろから7月上旬ごろに華中(長江中下流域)、6月下旬ごろから7月下旬ごろに華北の一部が長雨の時期となる。
長雨はそれぞれ1ヶ月ほど続く。
朝鮮半島
朝鮮半島南部では、6月下旬ごろから7月下旬ごろに韓国の一部が長雨の時期となる。
長雨は1ヶ月ほど続く。
大韓民国気象庁は、各地域の梅雨入りや梅雨明けの発表を行っており、事前に梅雨入りや梅雨明けの予想も行っている。
一般的な特徴
梅雨入り前の5月~6月ごろ、梅雨に似た天候が見られることがあり、これを走り梅雨(はしりづゆ)、梅雨の走り(つゆのはしり)、あるいは迎え梅雨(むかえづゆ)と呼ぶ。
梅雨入り当初は比較的しとしととした雨が連続することが多い。
梅雨の半ばには、一旦天気が回復する期間が出現することがある。
この期間のことを、梅雨の中休み(つゆのなかやすみ)と言う。
梅雨の時期、特に長雨の場合は、日照時間が短いため、気温の上下(最高気温と最低気温の差、日較差)が小さく、肌寒く感じることがある。
この寒さや天候を、梅雨寒(つゆざむ)または梅雨冷(つゆびえ)と呼ぶ。
一方、梅雨期間中の晴れ間は梅雨晴れ(つゆばれ)または梅雨の晴れ間と呼ばれ、特に気温が高く、湿度も高い。
そのため、梅雨晴れの日は不快指数が高くなり過ごしにくく、熱中症が起こりやすい傾向にある。
梅雨末期には降雨量が多くなることが多く、時として集中豪雨になることがある。
南及び西ほどこの傾向が強く、特に九州では、十数年に1回程度の割合で、この時期に一年分の降水量がわずか一週間で降ることもある。
(熊本県・宮崎県・鹿児島県の九州山地山沿いが典型例)
逆に関東や東北など東日本では梅雨の時期よりもむしろ秋雨の時期のほうが雨量が多い。
梅雨末期の雨を荒梅雨(あらづゆ)あるいは暴れ梅雨(あばれづゆ)とも呼ぶ。
また、梅雨の末期には雷を伴った雨が降ることが多く、これを送り梅雨(おくりづゆ)と呼ぶ。
また、梅雨明けした後も、雨が続いたり、いったん晴れた後また雨が降ったりすることがある。
これを帰り梅雨(かえりづゆ、返り梅雨とも書く)または戻り梅雨(もどりづゆ)と呼ぶ。
これらの表現は、近年ではあまり使われなくなってきている。
なお、梅雨明けが遅れた年は冷夏となる場合も多く、冷害が発生しやすい傾向にある。
空梅雨
梅雨の期間中ほとんど雨が降らない場合がある。
このような梅雨のことを空梅雨(からつゆ)と言う。
空梅雨の場合、夏季に使用する水が確保できなくなり、渇水を引き起こすことが多い。
秋・冬の降水量が少ない北部九州や瀬戸内地方などでは、空梅雨の後、台風などによるまとまった雨がない場合、渇水が1年以上続くこともある。
陰性・陽性
あまり強くない雨が長く続くような梅雨を陰性の梅雨、雨が降るときは短期間に大量に降り、降らないときはすっきりと晴れるような梅雨を陽性の梅雨と表現することもある。
陰性の梅雨を女梅雨(おんなづゆ)、陽性の梅雨を男梅雨(おとこづゆ)とも呼ぶが、性差別的な表現であるとされ、近年ではあまり使われない。
傾向として、陰性の場合は、オホーツク海高気圧の勢力が強いことが多く、陽性の場合は、太平洋高気圧の勢力が強いことが多いが、偏西風の流路や、北極振動・南方振動(ENSO、エルニーニョ・ラニーニャ)なども関係しているため、一概には言えない。
台風との関連
台風や熱帯低気圧は、地上付近では周囲から空気を吸い上げる一方、上空数千m~1万mの対流圏上層では、吸い上げた空気を湿らせて周囲に大量に放出している。
そのため、梅雨前線の近くに台風や熱帯低気圧が接近または上陸すると、水蒸気をどんどん供給された梅雨前線が活発化して豪雨となる。
また、梅雨前線が、勢力が弱まった台風や温帯低気圧とともに北上して一気に梅雨が明けることがある。
梅雨の豪雨パターン
梅雨の時期の大雨や豪雨の事例を見ていくと、気圧配置や気象状況にある程度のパターンがあるといわれている。
日本海側で豪雨になりやすいのが、日本海南部に停滞する梅雨前線付近を低気圧が東に進むパターンである。
低気圧に向かって南西から湿った空気が流れ込み、その空気が山脈にぶつかって局地的な豪雨となりやすい。
太平洋側で豪雨になりやすいのが、梅雨前線が長期的に停滞するパターンや、太平洋側付近に梅雨前線、西側に低気圧がそれぞれ停滞するパターンである。
南~南東から湿った空気が流れ込み、同じようにその空気が山脈にぶつかって局地的な豪雨となりやすい。
また、前述のような条件下で湿舌と呼ばれる特異な水蒸気の流れ込みパターンとなったり、テーパリングクラウドのような発達した積乱雲が、停滞したり同じ地域に次々と流れ込んだりして、豪雨をもたらすことがある。
海洋変動との関連
統計的に見て、赤道付近の太平洋中部~東部にかけて海水温が上昇・西部で低下するエルニーニョ現象が発生したときは、日本各地で梅雨入り・梅雨明け共に遅くなる傾向にあり、降水量は平年並み、日照時間は多めとなる傾向にある。
また、同じく中部~東部で海水温が低下・西部で上昇するラニーニャ現象が発生したときは、沖縄で梅雨入りが遅めになるのを除き、日本の一部で梅雨入り・梅雨明けともに早くなる傾向にあり、降水量は一部を除き多め、日照時間はやや少なめとなる傾向にある。
菜種梅雨
主に3月下旬から4月上旬にかけての、連続した降雨を「菜種梅雨」(なたねつゆ)と言う。
アブラナが咲く頃に降るためこの名前がある。
梅雨のように何日も降り続いたり、集中豪雨を見ることは少ないが、やはり曇りや雨の日が多く、すっきりしない天気が何日も続くことが多い。
冬の間、本州付近を支配していた大陸高気圧の張り出しや、移動性高気圧の通り道が北に偏り、一方で、その北方高気圧の張り出しの南縁辺に沿って、冷湿な北東気流が吹いたり、本州南岸沿いに前線が停滞し易くなるために生ずる。
そのときには南岸に小低気圧が頻繁に発生し易くなるのも、また特色である。
そのため、西~東日本太平洋沿岸部にかけていう場合が多く、北日本にはこの現象は見られない。
近年は、暖冬傾向、及び、温暖化の影響もあり、菜種梅雨が冬に繰り上がるきらいがあり、気候の変動が懸念される面もある。
例としては、1990年(平成2年)2月は月の後半を中心に曇雨天続きで、東京での同・月間日照時間は僅か81時間しかならず、大暖冬を象徴するかのようだった。
また、1985年(昭和60年)には3月は月全体を通して関東以西の太平洋側地方では冷たい雨の連続であった。
東京では同年月での快晴日数は0(梅雨期である6、7月を除いては初のワースト記録)、日本気象協会発行の天気図日記では「暗い3月」と評される程であった。
その他、1988年(昭和63年)、1991年(平成3年)、1992年(平成4年)、1995年(平成7年)、1999年(平成11年)と3月が比較的長いこと曇雨天が持続した影響で、月間日照時間は北日本除いてかなり少なかった。
そのため、20世紀末にかけての3月は、「菜の花の上にお日様無し」、「行楽受難・鬼門の月」、「花見には 傘など雨具が 必需品」、「卒業式、終業式はいつも雨」などと不名誉なレッテルが貼られたこともあった。
その他、2002年(平成14年)、2006年(平成18年)には2月おわりから3月初めにかけて、南岸前線が停滞したり、朝晩中心に雨の降り易いすっきりしない空が続いて、お天気キャスターの一部では「菜種梅雨の走り?」と評されたりもした。
秋の長雨(すすき梅雨)
詳しくは秋雨の項を参照。
走り梅雨
主に5月下旬から、梅雨本番前ぶれのように雨が降り続く状態を言う。
ちょうど、その時期が卯の花が咲く頃にあたり、卯の花を腐らせるような雨ということから、卯の花腐し(くたし)とも呼ぶことがある。
「走り」とは、「先駆け」を意味し、「走り梅雨」とは、梅雨に先駆けて降り続く雨と解釈することもある。
「梅雨の走り」ともいう。
沖縄など南西諸島の梅雨期にあり、南西諸島付近にある梅雨前線が一時的に本州南岸沿いに北上したときに多く見られる。
また、オホーツク海高気圧が5月前半に出現した場合に、北東気流の影響を受け易くなるため、関東以北の太平洋側で低温と曇雨天が長続きすることがある。
その他、メイストームなど、日本海や北日本方面を通過する発達した低気圧の後面に伸びる寒冷前線が本州を通過して、太平洋側に達した後、南海上の優勢な高気圧の北側に沿って、そのまま停滞前線と化して、太平洋側、主に東日本太平洋沿岸部でしばらくぐずつき天気が続くケースもその類いである。
さざんか梅雨
主に11月下旬から12月上旬にかけての、連続した降雨を「さざんか梅雨」と言う。
サザンカが咲く頃に降るためこの名前がある。
蝦夷梅雨
一般的に北海道地方は、梅雨がないといわれている。
しかし、本州と同じ時期に、年によっては、2週間くらい、主にオホーツク高気圧の勢力南下に伴うぐずつき肌寒い天気が続くことがある。
気象庁ではこれを梅雨とは認めていない。
俗にこの時期の北海道はリラ冷えとも呼ばれる。
梅雨前線によってもたらされた災害
梅雨の気象記録
最大1時間降水量
153mm
長崎県長浦岳 (1982年7月23日、日本の全観測点の観測史上2位)
129mm
静岡県土肥 (2003年7月4日、同16位)
127.5mm
- 長崎県長崎 (1982年7月23日、同17位)
127mm
- 鹿児島県枕崎 (2000年6月25日、同18位)
日本の全観測点の観測史上上位20のうち、梅雨のものは4地点しかない。
この理由として、梅雨の時期は寒気を伴った激しい集中豪雨が発生しにくいこと、台風が接近しにくいことが挙げられる。
最大年間降水量
8670mm
- 宮崎県えびの (1993年、日本の全観測点の観測史上1位)
この年は、5月17日に梅雨入り、梅雨明けは「特定せず」となった。
梅雨期間中の5月に122mm、6月に2242mm、7月に2299mm、8月に1717mmの雨が降った。
(梅雨入りから8月末までで年間降水量を超える雨が降った。)
(平年では年間降水量4582.2mm。)
梅雨に関連するもの
旧暦では5月 (旧暦)にあたることから、五月雨(さみだれ)ともいう。
「五月雨式」とは、梅雨時の雨のように、物事が長くだらだらと続くことである。
五月雨の降る頃の夜の闇のことを五月闇(さつきやみ)という。
梅雨の晴れ間のことを五月晴れ(さつきばれ)というが、この言葉は最近では「ごがつばれ」とも読んで新暦5月初旬のよく晴れた天候を指すことの方が多い。
お天気の専門家である気象庁では、五月の晴れのことを「さつき晴れ」と呼び、梅雨時の晴れ間のことを「梅雨の合間の晴れ」と呼ぶように取り決めている。
楽曲
雨(作詞:北原白秋、作曲:弘田龍太郎)
雨ふり(作詞:北原白秋、作曲:中山晋平)
雨ふりお月さん(作詞:野口雨情、作曲:中山晋平)
雨降り熊の子
てるてる坊主(作詞:浅原六朗、作曲:中山晋平)
かたつむり(唱歌)
五月雨(作詞・作曲・歌:大瀧詠一)
植物
ツユアオイ(梅雨葵)
アジサイ
- 梅雨の時期に咲く代表的な花。
梅雨を表現する際に出てくることが多い。
生物
カビ
- 梅雨は湿度が高く、カビの発生が最も多い時期である。
生活
食中毒
- 梅雨は湿度・気温ともに高いことから、食中毒の件数が増加する。
災害
土砂災害
土石流や地すべりによる被害。
洪水
河川や内水面の氾濫。
俳句
五月雨を集めて早し最上川(松尾芭蕉)