尺貫法 (Shakkanho (traditional system of weights and measures))
尺貫法(しゃっかんほう)は、長さ・面積などの単位系の一つ。
東アジアで広く使用されている。
尺貫法という名称は、長さの単位に尺、質量の単位に貫を基本の単位とすることによる。
ただし、「貫」は日本独自の単位であり、従って尺貫法という名称も日本のみのものである。
尺貫法と言った場合、狭義には日本固有の単位系のみを指す。
尺貫法に対し、中国固有の単位系は貫ではなく斤であるので市制 (単位系)という。
本項では、広義の尺貫法として、中国を発祥として東アジア一円で使われている、あるいは使われていた単位系について説明する。
なお、現在日本では、計量法によると、取引や証明で尺貫法を用いることは禁止されており、違反者は50万円以下の罰金に処せられる。
しかし実際には伝統的な業種では黙認されている。
概要
尺貫法は中国が起源である。
西洋のヤード・ポンド法などと同様、当初は身体の一部の長さや、穀物の質量などが単位として使われていた。
しかし次第に明確な定義が定められるようになった。
その最たるものが前漢末、劉キンの三統暦にある黄鍾秬黍説である。
長さは秬黍(きょしょ。クロキビ)の1粒の幅を1分(0.1寸)、黄鍾と呼ばれる音律を出す笛の管の長さを90分(9寸)とした。
さらに黄鍾の管の容積(810立方分)を1龠(0.5合)、黄鍾の管に入る秬黍1,200粒の質量を12銖(0.5両)とした。
この黄鍾秬黍説が後の度量衡制の基準となった。
歴代の王朝が法令によって度量衡を定めた。
特に長さの単位は時代とともに長くなり、唐代以降は1寸が3cm程度でほぼ一定した。
中国のほか、中国の影響を受けた東アジア一円(日本、朝鮮など)で、その文化とともに取り入れられた。
その後各地で独自の進化を遂げているが、値は中国の唐代のものからそれほど変化しておらず、元の値をほぼ保存している。
現在は、尺貫法を使用していた国はすべて国際単位系に移行しており、尺貫法を公式の単位としている国は存在しない。
ただし、中国、韓国では民間レベルでは尺貫法の単位が使われ続けている。
日本では国際単位系の単位を使用しているが、日本の住環境に適した尺度として、日本家屋の設計基準としては、尺を基準として使われることが一般的である。
しかし、設計時の寸法基準はあくまでメートルである。
例外的に、真珠の取引単位は直径はセンチメートル、ネックレス等の長さはインチとされ、質量はグラム表記したことで混乱を招いた歴史があることから、世界的に「匁(もんめ、momme)」が国際単位として使われている。
建築や不動産関係では土地や床面積の面積として、畳2帖の面積に相当する「坪」が非公式ながら常用されている。
不動産取引自体に直接「坪」という単位は使えない。
例えば住宅の建設費で、坪当たりの単価を示す場合には「坪あたり○万円」を使わず「3.3平方メートルあたり○万円」の形で表記される。
単位
長さ・距離(度)
長さ・距離の単位(度量衡の「度」)は、尺を基本の単位とする。
他の単位は尺と独立に発生したと考えられる。
しかし後に尺と関連づけられ、その整数倍または整数分の一となった。
尺は時代や地域によってその長さが異なる。
また、同じ時代でも目的などによって複数の尺が使い分けられてきた。
今日の日本では曲尺(かねじゃく。単に「尺」と言えばこちらを指す)とその1.25倍の長さの鯨尺(くじらしゃく)が残っている。
詳細は尺を参照のこと。
高さについては尺のみを用いる。
例えば「日本アルプスは約一万尺」のようにいう。
深さについては尋(6尺)が用いられる。
間については、1間が6尺と明確に定められたのは明治の度量衡法においてである。
それまでは、間は建築の際のモジュールを規定するだけであった。
「およそ6尺」という以外は特に定めはなく、「間」を用いる際はそれが何尺何寸であるかを示す必要があった。
尺の系統とは別に、通貨(寛永通宝)の直径を基準とする「文 (長さ)」(もん)という単位があった。
一文銭の直径は時代により若干の誤差があるが、おおよそ24ミリメートル(8分)であった。
文は足や靴の単位として用いられた。
十文(ともん)は約24センチメートルである。
面積・地積
面積の単位には、メートル法と同じく長さの単位を組み立てて「方寸(平方寸)」「方尺(平方尺)」「方丈(平方丈)」のように言う。
ただし、土地の面積(地積)については特別の単位が用いられる。
地積の基本の単位は坪または歩である。
坪または歩は一辺が6尺の正方形の面積で、すなわち36平方尺となる。
平方メートルへの換算は、度量衡法での尺の定義より導かれたものである。
田畑や山林の地積には町、反、畝、歩を用い、宅地や家屋の地積には坪、合、勺を用いる。
なお、合・勺は、体積の単位を流用したものである。
町・反・畝については、その値が1ヘクタール、10アール、1アールに非常に近い(実用上は等しいと言っても良い)。
このため、西洋の諸国では困難を極めた地積単位のメートル法への移行は、日本ではスムーズに行われた。
ただし、坪だけはメートル法の単位できりの良い値にならないため、現在でも使用されている。
合・勺は用いられず、坪に小数の値をつけて表される。
歩も用いられることはなく、田畑・山林の地積についてはアールや平方メートルが用いられている。
田畑や山林について、面積の値が町・反・畝で終わるときに、通常、その後に「歩」をつけてちょうどの値であることを明示する。
例えば、「3町」ではなく「3町歩」のように言う。
また、2町4反歩、6反8畝歩のように言う。
町よりも大きな面積については、一辺1里の正方形の面積を示す「方里」(1555.2町≒15.423平方キロメートル)を用いる。
体積(量)
体積・容積の単位(度量衡の「量」)は、升を基本の単位とする。
升の大きさは時代や地域によって大きく異なる(詳細は升を参照のこと)が、升と他の単位との関係はほとんど古代から変わっていない。
日本で升が現在の大きさになったのは江戸時代のことである。
リットルへの換算は、度量衡法での尺の定義より導かれたものである。
土砂などについては、6尺立方に相当する立坪(単に坪とも)が用いられる。
また、1立方尺を才とも言う。
質量(衡)
質量(度量衡の「衡」)は、現代では貫を基本の単位とする。
これは明治24年(1891年)公布の度量衡法において、貫は国際キログラム原器の4分の15の質量(すなわち15/4キログラム 3.75キログラム)と定められたものである。
江戸時代以前は「両」を基本の単位としていた。
両替商で用いられた分銅は両が基本単位であり、匁は補助的な単位となっている。
この分銅は江戸時代を通じて後藤四郎兵衛家のみ製作が許され、それ以外のものの製作および使用は禁止された。
しかしながら、丁銀および豆板銀の通貨単位は量目(質量)の実測値である。
小判の通貨としての単位である「両」と区別する意味で「匁」が用いられることになり、一般的に質量の単位としては匁が広く普及した。
匁は、元々中国で用いられた名称は「銭」であり、銭貨(日本では一文銭)一枚の質量を単位としたものであった。
一文銭1000枚分の質量として定められたのが貫である。
貫は通貨の単位(1000文。江戸時代には一般的に省陌法と称して960文。明治時代には10銭)としても用いられたので、区別のために質量の方は貫目、通貨の方は貫文と呼んだ。
キログラムへの換算は度量衡法に基づくものである。
江戸時代はこれよりやや小さい。
度量衡法における元々の質量の単位の基準は、黍の質量であった。
『漢書律歴志』に以下の記述がある。
「権者銖・両・斤・鈞・石也。」
「所以称物平施知軽重也。」
「本起於黄鍾之重。」
「一龠容千二百黍重十二銖。」
「両之為両。」
「二十四銖為両。」
「十六両為斤。」
「三十金為鈞。」
「四鈞為石」
これは黍1200粒を12銖(後に「朱」と略記された)とし、これが2つで1両とするものである。
「両」には「二つ」という意味がある。
これから24銖が1両となる。
16両が1斤、30斤が1鈞、4鈞が1石となる。
漢の度量衡では嘉量の質量が『漢書律歴志』に「重二鈞」と記載されている。
これに基づくと1両は3.8銭(匁)程度であった。
しかし、隋代にこれの約3倍の大両と呼ばれる制度ができた。
唐代になるとその質量が11%ほど縮小している。
中国の学者が算出した嘉量による単位と、呉承洛の『中国度量衡史』による隋代および唐代の単位をグラムに換算したものを以下に示す。
質量の単位の銭(匁)は、この系統とは独立して発生したものである。
すなわち開元通宝は10枚で24銖すなわち1両をいう基準でつくられた。
この一枚の質量は1/10両で、これを1銭(匁)とした。
ただし鋳造貨幣というものは質量を均一に作成することは困難である。
質量の1銭(匁)の基準が開元通寳というわけではない。
金貨・丁銀は鎌倉時代以前の発足時はその質量によって価値が定められた。
当初は一両の質量の砂金が金一両であったが、次第に質量と額面が乖離するようになった。
室町時代には既に京目金一両は4.5匁となり、安土桃山時代は京目金一両は4.4匁、田舎目金一両は4匁前後へと変化した。
江戸時代初期の慶長小判は京目一両を基準として量目が定められた。
しかし後の貨幣改鋳により含有率や質量の劣る小判が発行されるようになり、質量単位と通貨単位との乖離はさらに拡大した。
分量単位
元来、漢数字としての、小数を表す文字である「分 (数)」(ぶ)は、数値としては10分の1、厘は100分の1を示す。
日本では10分の1を表す歩合として「割」があった。
そこで「割」の10分の1を「分」、100分の1を「厘」とする用法が普及した。
このため日本国内では歩合(割合)を表す場合、「分」は100分の1、「厘」は1000分の1とするのが一般的である。
例えば、長さの単位としては基本単位である尺の100分の1が1分(ぶ)、質量の単位としては基本単位である両の100分の1が1分(ふん)となる。
ただし、漢数字通りに10分の1寸が1分、10分の1匁が1分と解釈できなくもない。
分
-- 100分の1尺(両)
厘
-- 1000分の1尺(両)
毛 (数)(毫)
-- 10000分の1尺(両)
糸 (数)
-- 100000分の1尺(両)
その他
建築関係などにおいて、ベニヤ板などの板材の大きさを表すのに「3×6版(さぶろくばん)」「4×8版(よんぱちばん、しはちばん)」などといった呼称が用いられることがある。
これらは長さを尺(曲尺)で表したものである。
前者は3尺×6尺(90.9cm×181.8cm)、後者は4尺×8尺(121.2cm×242.4cm)の大きさの板材を指すことが多い。
いわゆるコンパネと呼ばれるコンポジットパネルでは同一の呼称を用いても異なる。
例えば91cm×182cm や 90cm×180cm の製品が存在する。