匂宮 (Niou Miya)
匂宮(におうみや、におうのみや)は、『源氏物語』五十四帖の巻名のひとつ。
第42帖。
巻名は本文の「世人は匂ふ兵部卿、薫る中将と聞きにくく言ひつづけて…」に因む。
本来の題は「匂兵部卿(におうひょうぶきょう)」で、「匂宮」は略称。
光源氏の子孫とその縁者の後日談を書く。
『源氏物語』の架空の登場人物の通称。
「匂兵部卿宮(におうひょうぶきょうのみや)」とも。
第三部「宇治十帖」の中心人物の一人。
帖のあらすじ
「幻 (源氏物語)」から八年後、薫14歳から20歳までの話。
光源氏亡き後、その面影を継ぐ人はいなかった。
ただわずかに今上帝 (源氏物語)の三の宮(匂宮)と女三宮腹の若君(薫、実は柏木 (源氏物語)の子)が当代きっての貴公子との評判が高い。
匂宮は元服して兵部卿となり、紫の上の二条院を里邸としている。
夕霧 (源氏物語)は匂宮を婿にと望みもするが、自由な恋愛を好む当人にはその気がない。
その夕霧は、落葉の宮を六条院の夏の町に迎え、三条殿に住まう雲居の雁のもとと一日交代に月に十五日ずつ律儀に通っている。
夕霧は娘の中で一番美人と誉れ高い藤典侍腹の六の君を、落葉の宮に預けて教養の豊かな女性に育てようとしている。
六条院は、今は明石の姫君の子たちの大半が住んでいる。
夏の町に住んでいた花散里は二条院の東の院へ、女三宮は三条宮へそれぞれ移っている。
一方薫は、冷泉帝と秋好中宮に殊更に可愛がられ育てられ、元服後は官位の昇進もめざましい。
しかし、漠然ながら自分の出生に疑念を感じていた薫は、人生を味気なく思い、悶々と出家の志を抱え過ごしていた。
不思議なことに、薫の体には生まれつき仏の身にあるといわれる芳香が備わっていた。
匂宮は対抗心から薫物(たきもの)に心を砕き、このため二人は世間から「匂ふ兵部卿、薫る中将」と呼ばれる。
世間の評判はこの二人に集中し、娘の婿にと望む権門は多かった
しかし、匂宮は冷泉院の女一宮に好意を寄せており、厭世観を強めている薫は思いの残る女性関係は持つまいとしている。
薫20歳の正月、夕霧は六条院で賭弓(のりゆみ)の還饗(かえりあるじ)を催した。
匂宮はもちろん、薫も出席し、華やかな宴となる。
人物の匂宮
今上帝 (源氏物語)の三の宮(第三皇子)で、母は光源氏の娘の明石の姫君。
源氏の外孫にあたる。
五十四帖中「若菜 (源氏物語)」から「蜻蛉 (源氏物語)」まで登場。
幼い頃、姉の女一宮と共に紫の上に育てられる(「若菜」)。
彼は特に実子同然に可愛がられ、紫の上の死後は彼女が所有していた二条院を自分の住まいとしている。
六条院で一緒に育った弟分の薫に常に対抗心を燃やしている。
薫の身体の芳香に対抗して着衣に薫物を焚き染めていることから、「匂宮」と呼ばれている(「匂宮」)。
今上帝の子の中で一番の美貌で、方々から婿にとの誘いがかかった。
しかし、政略結婚よりも自由勝手な恋愛を好む匂宮は、なかなか正妻を持たなかった。
ある時、薫から宇治八の宮の姫君たちの噂を聞いた匂宮は、薫の手引きで中の君と結婚する。
匂宮は彼女を二条院へ迎えとる(「総角 (源氏物語)」「早蕨」)。
しかし後に夕霧 (源氏物語)の娘六の君を北の方に迎えると、彼女に興味を移して中の君をないがしろにしてしまう(「宿木」)。
また、中の君の異母妹浮舟 (源氏物語)が薫の恋人と知りながら、薫になりすまして契りを結び、彼女が苦悩の末入水を図る原因となった(「浮舟」)。