大国主の神話 (Myth of Okuninushi)
大国主の神話(おおくにぬしのしんわ)。
この記事では、因幡の白兎の説話の後の、大国主(オオナムヂ)についての日本神話を記す。
あらすじ
八十神の迫害
オオナムヂの兄弟である八十神(ヤソガミ)たちは因幡のヤガミヒメに求婚するが、ヤガミヒメはオオナムヂと結婚すると言った。
そこで八十神はオオナムヂを恨み、オオナムヂを殺すことにした。
オオナムヂを伯岐国の手前の山麓につれて来て、「赤い猪がこの山にいる。我々が一斉に追い下ろすから、お前は待ち受けてそれを捕えよ」と命令した。
オオナムヂが山麓で待ち構えていた所に、八十神たちは猪に似た大石を火で焼いて転がし落とした。
オオナムヂはそれを捕えようとして、石に焼かれて死んでしまった。
それを知ったオオナムヂの母親(サシクニワカヒメ(刺国若比売))は嘆き悲しんで高天原に上り、カミムスビに救いを求めた。
カミムスビはキサガイヒメ({討/虫}貝比売)とウムギヒメ(蛤貝比売)を遣わした。
二神の治療によりオオナムヂは生き返り、出て歩けるまでに回復した。
オオナムヂが生き返ったことを知った八十神は、またオオナムヂを殺すことにした。
大木を切り倒して楔で割れ目を作り、その中にオオナムヂを入らせ、楔を引き抜いて打ち殺してしまった。
母親が泣きながら探した所、その大木を見つけることができ、すぐに木を裂いて取り出して生き返らせた。
母親は、「あなたはここにいたら、八十神によって滅ぼされてしまうだろう」と言い、木国のオオヤビコの所へ行かせた。
木国のオオヤビコの所へ行くと、八十神が追いかけて来て引き渡すように求めた。
オオヤビコはオオナムヂを木の股を潜り抜けさせて逃がし、スサノオのいる根の国に向かうよう言った。
根の国訪問
オオナムヂが根の国のスサノオの家までやって来ると、スサノオの娘のスセリビメ(須勢理毘売命)が出て来た。
二人は互いに見つめ合い一目惚れした。
スセリビメが父のスサノオに「とても立派な神が来られました」と報告すると、スサノオは呼び入れて、蛇がいる室(むろや)に寝させた。
スセリビメは「蛇の比礼(ひれ:女性が、結ばずに首の左右から前に垂らすスカーフの様なもの)」をオオナムヂに授け、蛇が食いつこうとしたら比礼を三度振るよう言った。
その通りにすると蛇は自然と鎮まったので、オオナムヂは無事に一晩寝て、室を出ることができた。
次の日の夜、スサノオはオオナムヂを、ムカデと蜂がいる室で寝させた。
スセリビメは「ムカデと蜂の比礼」を授けたので、オオナムヂは無事に室を出ることができた。
スサノオは、鳴鏑(なりかぶら)を広い野原の中に射込み、その矢を拾ってくるようオオナムヂに命じた。
オオナムヂがその野原に入ると、スサノオは火を放ってその野原を焼き囲んだ。
オオナムヂが困っていると、鼠が来て「内はほらほら、外はすぶすぶ」(穴の内側は広い、穴の入り口はすぼまって狭い)と言った。
その意味を解してオオナムヂがその場を踏んでみると、地面の中に穴が空いていて、そこ落ちて隠れることができ、その間に火が過ぎていった。
その鼠はスサノオが射った鳴鏑を咥えて持って来た。
スセリビメはオオナムヂが死んだと思って泣きながら葬式の準備をしていた。
スサノオは、さすがにこれで死んだだろうと思って野原に出てみると、そこに矢を持ったオオナムヂが帰って来た。
スサノオはオオナムヂを家に入れ、頭の虱を取るように言った。
ところが、その頭にいたのはムカデであった。
スセリビメは椋(むく)の実と赤土をオオナムヂに授けた。
オオナムヂが木の実を噛み砕き、赤土を口に含んで吐き出していると、スサノオはムカデを噛み砕いているのだと思い、かわいい奴だと思いながら寝入ってしまった。
オオナムヂはこの隙に逃げようと思い、スサノオの髪を部屋の柱に結びつけ、大きな石で部屋の入口を塞いだ。
スサノオの大刀と弓矢、スセリビメの琴を持ち、スセリビメを背負って逃げ出そうとした時、琴が木に触れて鳴り響いた。
その音でスサノオは驚き、部屋の柱を引き倒してしまった。
しかし、スサノオが柱に結びつけた髪を解いている間に遠くへ逃げることができた。
スサノオは黄泉津比良坂まで追いかけたが、そこで追いかけるのを止め、遠くに逃げるオオナムヂに言った。
「お前が持っている大刀と弓矢で従わない八十神たちを追い払え。
そしてお前が大国主となって、スセリビメを妻として、立派な宮殿を建てて住め。この野郎め。」
大国主は八十神たちを追い払い、国づくりを始めた。
ヤガミヒメは本妻のスセリビメを恐れ、木俣神を木の俣に刺し挟んで実家に帰ってしまった。
大国主の妻問い
ヤチホコ(八千矛神。大国主の別名)は、高志国のヌナカワヒメ(沼河比売)を娶ろうとして出かけ、歌を詠み交わした。
そのことについて妻のスセリビメが大変嫉妬した。
大国主が出雲からまた出かけようとした時にスセリビメに歌を詠むと、スセリビメは杯を捧げて歌を返した。
二神は杯を交わし、今に至るまで鎮座している。
解説
これらの説話は『日本書紀』にはない。
比較神話:八十神の迫害および根の国訪問の説話は、課題婚型と呼ばれる神話の形式で、世界各地に見られる。
オオナムヂが死んで母親の力によって蘇生するという話は、フィンランドの叙事詩『カレワラ』と非常に酷似しているとの指摘がある。
これらの話を成人通過儀礼を表すものとする説もある。
カミムスビが遣わしたキサガイヒメはアカガイ、ウムギヒメはハマグリであり、赤貝の殻の粉を蛤汁で溶いて火傷に塗布したと考えられている。
これは後の石灰乳(Linimentum Calcis)に通じるものがあり、火傷に対し妥当な治療法であった考えられている。
オオヤビコのいる「木国」(きのくに)については、一般には紀伊国と解され、これを根拠に当時出雲国と紀伊の間には交流があったとされている。
しかし、根の国(黄泉)の入口である黄泉津比良坂は旧出雲国(島根県八束郡東出雲町)にあり、一旦紀伊国まで行くのはおかしいとして、これは単に木の多い所の意味であるとする説もある。
大国主の妻問いの説話には五首の歌謡が出て来るが、その内容から本来は饗宴の席で歌われた歌曲であると考えられる。
また、後の時代から使われ出した枕詞が多く入っていることから、成立は比較的新しいものである。
ヌナカワヒメという名前は越国頸城郡沼川(ぬのがわ)郷に因むものである。
新潟県糸魚川市には、ヌナカワヒメを祀る奴奈川神社がある。